ムサシの国を見下ろす“希望”

午後6時50分、東武線の北千住駅。昨日に続いて、コンコースで入場規制の列に飲み込まれる。自動改札を抜けてからホームへの階段をかすめるように列が延びて、一度引き返して、二度目にようやく階段を降りることができた。2番線には始発の準急が停まっている。銀色の車体に橙色の帯が引かれた車体は、東急の車両だ。今は乗り入れていない東急田園都市線。その割と新しい車両の中程、人と人の列の間に、身体を押し込んでいく。昨日はドアに張り付くようにしていたけど、今日は少し落ち着けそうだ。

シャッターが降りた特急乗り場を過ぎて、すぐに鉄橋。黒く沈みきった荒川に風が渡り、暗がりの川面をざわつかせている。その上流、視線の先にあるゴマ粒ほどの外灯は国道4号線。ちょうど一週間前、宵闇の中に歩いて渡った千住新橋だ。向こう岸に着くまで、いろいろ考えられた時間を伊勢崎線の準急はあっと言う間に越えていく。あのときと同じ色の空に、風はいくぶん穏やかに吹いている。西新井から草加へ・・・汚れの浮いたガラス越し、心折れそうにたどり着いた街並みは、あの日と同じ静けさに包まれているように見えた。

REGALの革靴が長距離を歩いてもへこたれなかったこと、北上していく群衆に奇妙な一体感があったこと、クルマで走り慣れた道はなかなか距離が縮まなかったこと、膝と股関節に初めて味わう痛みが広がったこと、その痛みで歩けなくなりそうになったこと、電車と同じで進めが進むほどに人影がまばらになること、上り車線の渋滞にあるクルマが歩く速さよりも遅かったこと・・・そして、駅伝の選手がフラフラと千鳥足になって倒れ込んでしまうのが何故なのか・・・7時間の間に、今まで知らなかったことがいろいろとわかった。そんな金曜日から、もう一週間だ。

“爪痕”の深さを思うと、どこか錆ついた気持ちになってしまう最近。そんな一週間にも、太陽は登り、暗い闇を晴らす明るい光が差し込んできた。去年、同じように会社を辞めた先輩が、鉄道会社に再就職が決まったという。何とも喜ばしいことだ、若輩のワタシも頑張らなくては。折しも毎朝眺めている東京スカイツリーが、あの揺れに動じることなく、無事634mに達したとニュースが伝えている。今や“希望の塔”とも言うべき東京スカイツリー・・・あの日、その姿を見ながら歩けたら、どんなに勇気づけられたことだろう。