春遠からじ・・・

冬晴れから一転、彼岸を待つことなく、陽射しに春が宿っている。柔らかな光は、輪郭をぼやかしたまま地上に降りてくる。風がその光をさらっていく・・・満開の桜が似合うほどの、春本番。そして、昼を過ぎると、着ていたトレーナーが邪魔になるくらいに気温も上がって、初夏を思わせる陽気。Tシャツから延びる二の腕に、太陽が真っ直ぐに落ちる・・・。

北側にあるガレージは、さすがに初夏とはいかない。東に向いた窓のカーテンを開けると、所作なさそうなマシンが4台、ひんやりとした空気の中で静かにしている。シャッターと一緒に入り口のガラス戸を開け放つ。明るい光に押されるようにして、生ぬるい風が吹き込んできた。「思いが募るだけ」とマシンには手を振れず、ずっと延び延びにしていた、BMXのチェーン調整に手を出す。気づけば二週間、エンジンに火が入っていないRM。KXとEXC-Rは、それ以上だ。外で溢れる白い光は、ガレージまで差し込まない・・・薄暗い中で原色のマシン達は寂しげだ。

太陽が大きく西に移動して、薄雲に飲み込まれる。手持ち無沙汰もあって、少し早目にシロとネロの散歩に出かける。まだTシャツでも十分、時間もあるし、久しぶりに河川敷まで足を延ばしてみた。土手が見えてくると、ネロがリードを引っ張ったまま、一心不乱に突き進んでいく。西側の斜面には、所々で菜の花が黄色い花を咲かせていた。夕映えにうっすらと杏色をかぶされて、優しく深みのある黄色が風にそよいでいる。満開になるのも、そう遠い日ではなさそうだ。