その“涙”のワケは?

行きつけの美容室「Brook ark」、そこに歴女がいる。その彼女なら何と言うだろう・・・勝家とお市の最期を。大河ドラマ『江』、前半の山場であろう北ノ庄の落城は、ワタシには楽しめる筋書きだった。史実がどうであったか、共に自刃した事実だけでは知る由も無い。ただ、気高い雰囲気をまとうお市の方、心の中にあるその姿を、鈴木保奈美は忠実に演じてくれていた。

左胸に脇差を突き立て、最期まで気丈な振舞いをみせるお市の方。しかし、その瞳は涙に濡れている。秀吉の策略に“いいよう”にやられた鬼柴田の眼にも涙が光っていた。娘たちとの惜別の涙か、夢破れた無念の涙か、今は亡き信長を慕う涙か・・・歴女イチ押しの前田利家を道連れにすることなく散ることを選んだ二人。身を包む炎に何を見ていたのだろうか。

豊川悦司演じる“兄信長“も、今わのきわに涙を見せていた。明智光秀の軍勢に取り囲まれ、本能寺の奥へ奥へと下がる信長。「人間五十年・・・潮時かもしれんな」と呟き、ふすまを開けるその時、瞳には涙が浮かんでいた。「本能寺の変」は、これまで数多のドラマで見てきたけれど・・・最期に涙する信長は初めてだ。余韻のある演出は、とても自然で記憶に残る場面となった。

脚本の妙なのか、演技巧者揃いなのか。とても素直な展開は、わかりやすくて感情移入がしやすい。江を演じる上野樹里の長身には目をつぶるとして、ここまでお市の方が描かれたドラマは、あまり無かった気がする。これからはナレーションとして声だけになってしまうようだけど、お高くとまって、少し鼻のつまった声は、ドラマに“奥行き”を与えてくれるに違いない。