冬の名残のにごり湯紀行~第四話

<3/17の続き>

たどり着いた日光湯元スキー場は、本格的な滑走を楽しむよりも、雪に戯れる姿が似合っていた。いわゆる“ファミリーゲレンデ”。視界の中には、そりすべりに興じる親子連れが何組もいる。しかし、親子とも元気な組み合わせは案外少ないようだ。もっぱら子供だけが勢いよく斜面をかけ上がっていき、その後ろから、ママやパパがとぼとぼと付いていく。足の裏から伝わるのは、雪ではなく、“氷”の感触・・・それを確かめるように、足下に手をつけてみた。グローブ越し、そのまま雪をつかもうとした指が、冷たく滑る。デニム地を模した皮革製のバイク用グローブは、防水機能があって雪をつかんでもへこたれないけど・・・氷を砕くのには、ちょっと無理があった。

白い斜面に目をやると、一組の父子が勢いをつけて降りてきた。黒革のエンジニアブーツ、そのブーツを時折雪に押しつけては、うまく速度を殺しながら滑るパパ。前に座るのは息子だろうか、5歳ぐらいの男の子が、目指す坂の底に真剣な眼差しを向けている。パパのブーツが斜面の雪を削り、氷の粒をまきあげる度、奇声にも歓声にも聞こえる叫びを上げてみせる。ただ、恐がりなのか、速度が乗ってくると、そりの手綱を離して横を向いてしまった。男の子を乗せたそりが、坂の底に停まる。顔は背けたままだ。底にいて一部始終を見ていた母親が、そんな息子の“弱腰”をなじり始めると・・・踵を返して、坂の上へと走っていく男の子。そりを片手に後ろを歩くパパは、そんな息子を頼もしく見つめながらも、少しげんなりしているようだった。

<続きは、また次回>