冬の名残のにごり湯紀行~最終話1/2

温泉が効いたのか、深いまどろみからのんびりと目を醒ます。その寝ぼけた顔のまま、朝風呂へとエレベータで降りていく。朝の湯は新鮮で、真っ直ぐに立ち込める湯気の向こうに青い空がにじんでいる。硫黄の匂いも、心なしか若い。露天の脇に積み上げられた雪の山が、暗い内湯からは、ただ白く光っていて、岩作りの湯船と外とを隔てている背の高い白壁が、空の青いところだけを直線に切り取っていた。内湯に浸かろうにも、起き抜けの肌には熱くて敵わない。仕方なく朝の冷気を覚悟して、外に出てみる。先客は・・・昨日の父子だった。

「おはよう」と声をかけると、少し照れたように身体をくねらせて「・・・おはよう」と小さくつぶやく男の子。「大きな声で!」と、パパが耳元でささやいているのが聞こえる。すると、「おはようごじゃいますっ!」と、少し舌足らずで高く乾いた声が、空へと突き抜けていった。心地良い音だ。朝からじゃんけんで遊ぶ二人、どこが面白いのか、“後出し”で勝った負けたと大喜びしている。その笑い声は、にごり湯にも負けないぐらい気持ちが良くて、当たり前のように微笑んでしまっていた。

<今日のところはここまで・・・残りは次回に>