サクラ

夜半の雨も、道端に小さな水たまりを留めているだけ。これで光が宿っていれば、明るい日曜日の始まりだけど・・・空の主役は今日もお休み。首筋を触る風だけが温い春の日、地上の主役の方は、今が“旬”のようだ。

テキ屋の姿もブルーシートも、提灯ものぼりも無い、何となく寂しい花見になってしまった今年。権現堂の主役も、さぞやがっかりしていることだろうと思っていたら・・・低く長く伸びた枝に薄い桃色の花びらをたくさん開かせて、去年と少しも変わらない姿を春霞に映していた。

菜の花の後ろに続く桜並木は、手を伸ばせば簡単に触れられる桜、その間近に眺められる花色が人気を呼んで、近県からも見物客が押し寄せる“桜の名所”だ。桜まつりは中止になったのに、見頃と日曜日が重なった今日は、人もクルマも大変な賑わいだ。

そんな権現堂堤からクルマで数分のところに、隠れた名所がある。知る人ぞ知る「幸手工業団地」の桜並木だ。工業団地の中を走る道路脇、等間隔に植えられた桜木は、まだ若いせいか枝ぶりこそ権現堂に譲るものの、色味は返って桃色が強いぐらい。権現堂のような喧騒も無く、しっとりと桜に触れられる、ワタシのお気に入りだ。

クルマの窓を流れる桜の枝。桜色の風を独り占めにしていたら、なぜだか目が潤んできた。風に洗われたのは瞳なのか心の奥なのか・・・桜木は、人を元気にしてくれる・・・。