明日から・・・

人づてに聞いた。可愛がっていた元部下が出世したと。向こうは昼休みに、まだもう少しという時間だ。でも、しばらく声を聞いていなかったし、胸ポケットから携帯を取り出して“電話帳”で“ゆ”の行をちょっと検索・・・画面の真ん中辺りに見つけた名前の“受話器”アイコンをタップしてみる。駅に向かう歩道は、昼時とあって、工場から出てきた人で列が続いている。耳元で鳴っていた呼び出し音が一瞬消えてしまったのは・・・音を立てて吹く、向かい風のせいだろうか。「もしもし」と繰り返しても、何も聞こえない。

歩道の隅に、今ではすっかり見なくなった電話ボックス。ちょうどいい。その陰に隠れるようにして「もしもし」と耳をすませば・・・「お疲れさまです」と聞き覚えのある声が返ってきた。u-chanだ。少し隠って話すクセは変わらない。「出世したんだってなぁ」とからかい半分に言葉を投げると、やりたくもない“何とか係”を押しつけられた中学生のように、少し照れてやる気がなさそうに応えるu-chan。それでもまんざらではないようで・・・「給料も上がったろうから、今度飯でもおごってくれよ」と話すと、素直な笑い声が耳に流れてきた。

ほどよく元気みたいだから、ついでに“相棒”のことを訊ねてみると・・・急に声が弱くなった。このところの“揺れ”にやられて、二度ほどブッ倒れてしまったらしい。自分で転がしたわけじゃないから・・・悔しいんだろう。気持ちは、よくわかる。

こうなると、お互い仕事中なのも忘れて、一気にバイク談義。ちょうど『U400』なんていう雑誌で250ccバイクの特集を見ていたもんだから、CRF250Rが気になるとか、英国生まれ?!のMegelli250Rは格好良いとか・・・ちょっと昔を思い出すようで、たまにロードバイクの話が弾むのも悪くない。すっかり“垢抜けた”韓国製のRT250Rが、実はニューカマーじゃないことや、ブレーキがプア(“プア”というところがいいね)だということなど、いまやロードバイクの話はu-chanの方がよく知っている。いやー、参った。出世するだけのことはある。

吹き荒れる南風を忘れてしまったかのように、ガラス張りの電話ボックスに隠れて、すっかり話し込んでしまった。「近いうちに一緒に走りに行こう。VTRの友達も誘って」・・・抜ける青い空を見上げて約束したのは、もう3月の話。あのときと同じ匂いのする風が舞う午後、仕事中なのに・・・明日からの連休にココロが騒がしい。