雨の朝

失くした黒の長財布のように、付き合いが短いものもあれば、えらく長い付き合いのものもある。例えばそれは、雨の日にだけ表われる、短い傘だったりする。強く降ったかと思ったら、すうっと雨足が弱まり・・・ワイパーの動きを何度も調整しながら、濡れたアスファルトの上、駅までの道を慎重に走っていく。

駐車場に着いたときには、運良く雨が小降りになっていた。この春から付き合い始めたHAGLOFSのショルダーバッグ。まだ2ヶ月足らずの新参“物”は、灰色を素地に、メイン気室の入口だけが橙色に縁取られている。スウェーデン生まれの“機能美”がお気に入りだ。あとは欧州製らしく“質実剛健”を実証して、長持ちしてくれることを楽しみにしている。その橙色の“線”を開いて、奥まったところから、折りたたみ傘を取り出す。montbellのそれは、登山での使用も考えているからか、とても軽く仕上がっている。

キャンプツーリングをしていた頃からだから、今の歳から引き算すると・・・もう20年来の付き合いだ。Bongoを降りて赤紫色の傘を開くと、目の前がぱっと明るくなった。

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テントの中で迎える雨の朝。フライシートに落ちる雨音は、大きくはっきりと耳に届く。これから走り出そうとする気も消えかかりそうなとき、このモンベルを差して外に出ると・・・足下がうっすらと紅を落としたように光って、気分まで明るくなったものだ。透けそうなぐらいに薄いナイロンが見せる“光の魔法”が気に入っている。

浮いたり沈んだり。気分が晴れてきたなと思ったら、次の日にはじめじめしてしまう・・・。ただ、こうした心の振れ幅も、古参と新参の“小物”たちに助けられながら、だんだんと狭まってきているようだ。内側に張られた象牙色と藍色の格子柄が気に入っていた長財布のことを悔やみながら、ロータリーと呼ぶにはあまりに狭い東武動物公園の駅前に曲がっていく。その曲がり角の植え込みにあるツツジが、雨を受けて、montbellと同じ色の花を盛んに開いていた。雨の日も、ちょっとだけ目線を上げれば、明るい彩りが瞳に映る。別行動ついでに、この週末、ツツジでも見にツーリングしてこようかな?