風誘う

芽吹いたばかりの幼葉に触れながら、風が西から吹き渡る。風薫る五月らしい乾いた風の朝。枝に宿る若葉のさえた黄緑色に、透きとおるような幼葉からにじんだ青い匂いがからんで、色香をまとった風が吹く。ようやくこの季節らしい一日が始まった。シロとネロと歩くあぜ道では、田んぼの苗も手のひらほどに伸び揃い、吹く風にさらわれても危な気なく、しっかりと空に向かっていた。

昨夜、この辺りにひとしきり降った雨のおかげで、ryoもホーム練習を諦め、ちょっとは気が楽な土曜日。ただ、澄みきった空と比べるまでも無く、走れない晴れた日は、気分が底に沈んで動かなくなる。「身体だけでも動かせば」と、折れたRMのスポークを差し替えることに・・・。もっと簡単にすむと思っていたら、タイヤを外さないとうまく着けられない。何度か試してみたけど、新品のスポークを曲げてしまいそうだ。大げさな整備は予定していなかったけど、夢中になる時間ができて、それはそれでいいかもしれない。

一番奥にしまい込んでいたRMを引っ張り出すのに、CRFとKXを次々とガレージから表に出していく。そんな出たり入ったりを繰り返していると・・・「こんちはー」と、kazuがやってきた。ずいぶんご無沙汰だ。オフヴィレを“ホーム”にしているチーム“とんちんかん”、kazuはそのオフヴィレで左手首にひびを入れてしまったらしい。「でも、もう大丈夫!明日は?」と訊かれて思わず「半谷か谷田部か・・・ちょっと遠いけど、榛名?!」と答えてしまった。もちろん財布を無くしたのも告白したけど・・・。

「夜に電話するわ」と、iQの助手席に乗り込んでkazuが帰っていく。RMも1時間ほどで走れる状態に戻って・・・マシンと身体は準備万端。問題は心と懐の“さみしさ”だけになった。光と風がつり合う“五月晴れ”は明日も続くというから・・・走りたいのは走りたい。あとは何に乗るか?だ。持てる小遣いが許すとすれば・・・250EXC-Rでツツジを見て、うどんを食すぐらいか・・・kazuからの連絡は、まだ無い。