霞んでいた空がにわかに青く醒めていく。日に日に高度を上げる太陽は、夏に向けての準備に抜かりがないようだ。夕べ、日暮里を襲った“春雷”というには少し遅い豪雨も雷鳴も、めずらしく素通りしていった、いつものあぜ道。土手のところがちょっと染みているだけで、白っぽい土色が先まで続いていた。秋よりも気分がいいのは、夏のやってくる予感がするから・・・肩をすぼめて歩くぐらいなら、紫外線に灼かれてもいい。キラキラと光る乾いた風が、そんな気持ちにさせてくれる。
東側の車窓からは、眩しく強い光がまっすぐに射し込んでくる。折からの“節電対策”もあって、車内にはだんだんと熱がこもってきて・・・春日部駅に着く頃には、スーツの上着とネクタイが、邪魔を通り越して邪悪なものに思えてくる。茶色のボレロを羽織った女性が、電車が停まる寸前、おもむろに腰を上げて立ち上がった。向かって右にクールビズの男性、左には透け感のある出で立ちの女性・・・立ち上がったボレロの背中が細身だったせいか、目の前に空いた空間は、少し狭く見えた。
ほんのわずかな時間迷ってから、その狭い隙間に身体を落とし込んだ。左の二の腕に、おじさんからの体温がじんわり伝わってくる。座っているのに、かなりの熱だ。でも、別に風邪を引いている訳じゃないだろう・・・よく見れば、ワイシャツのボタンとボタンの間から、おなかの肉がふくれ出ている。これじゃあ仕方がない。反対に右の二の腕は柔く涼しげな感触、自然と身体が右に傾げていくのは・・・いろんな“本能”が絡み合った所作なのかもしれない。
クルマ通勤が恋しくなるのは、こんな刹那。何も凍えるような朝だけじゃない。これからの季節、気温と一緒に、少しずつ湿度も増えてくる。「暑い夏が好き」とは、周りに密着されていないから言える台詞。蒸した電車は、きっと好きにはなれないはずだ。歓迎されることのない“ふれあい”・・・できれば薄い布一枚ぐらいは間に挟んでおきたいもの・・・今宵『リバウンド』の放送日、体重は1kgほど落ちたところで止まっている。