お米はやっぱり日本米! 2

それでも「連れが美人だから」と、日替わりランチにはないフルーツジュースを振る舞う主人。軽めの口調と流ちょうな日本語は、いったいどうやって覚えたのか、それとも天性のものなのか・・・その軽妙な語り口は“芸人”顔負け。これを聞くだけでも来た甲斐があると思えるくらい愉快な男だ。お冷代わりは、温かいローズティー。軽い主人とは対照的に、鼻筋が通って凛とした異国の女性が、スープ、ナンをにこやかに給仕してくれる。あぐらをかいた姿勢から、前屈みになってナンを取り上げ、スープに浸す。家でもこんな食べ方は・・・することがない。

メインディッシュは、真っ白なタイ米に、馴染みのない香辛料で味付けられたルーのかけられたカレー。酢漬けのカリフラワーとコールスローが添えられている。しかし、どういうわけか“おかわり自由”のスープの方が、味がいい。スープにナンの組み合わせが進むのは、味付けだけじゃない。主人が「本場の」と形容するタイ米、どうもこのタイ米が舌に合わないようだ。元々の味なのか、それとも炊き方がいけないのか・・・以前米不足の時には美味しく食べていたことを思い出すと、たぶん独特の炊き方をしているのだろう。どちらにしても、細長くてバラバラの米粒は、なかなか喉を通ってくれない。

風変わりな香辛料に鼻も舌も馴染んでくると、「これが日本米だったら・・・」と思ってしまう。ただ、それが返って見知らぬ国へ迷い込んだようで、望郷の念と言うべき不思議な時間が流れ出す。右隣の男性と入れ替わるように、「広島から」と話す女性が、金色の髪をした男性を連れ立って部屋に入ってきた。ちょうど目線の高さに彼女の腰があって、短いスカートに目が泳いでしまう。給仕係の女性と話し込んでいる声が、聞くとも無しに聞こえてくる。「ひさしぶり」と言うからには、初めてではないらしい。連れの男は英語しか話せないようで・・・五感のほとんどが、このまま“Trip”してしまいそうだ。

生温くなったローズティーの力を借りて、何とか失礼のない程度にカレーを片付ける。おまけしてもらったフルーツジュースは、ドロッと濃厚な口触りなのに、さらりと喉を落ちていって・・・口の中に変な甘さが残ることもない。南国の海辺を漂う香りに、胃に収まったタイ米も、大人しくなっていくようだ。思いがけず旅行気分を味わって、暗がりから外に出る。通りから振り返ると、あふれる光と風に、ベリーダンスの衣装が眩しく揺れていた。夜の8時に来れば、毎晩激しいダンスが見られるという。魅惑的な衣装に誘われて・・・一度は宵に来てみたいものだ。