アノ頃に未来に立っているのかな?

雨を避けるようにして、シロとネロをテラスの上に連れていく。腰が抜けてしまったように、腹ばいのまま動かないネロ。体を前に後ろにと、いつまでたっても落ち着かないシロ。性格のよく出た、いつもの光景だ。止まらないシロの鳴き声に、今は雨音も聞こえない。

部屋の入口近く、窓の下に据え付けられた留め具にシロ、木製のテーブルの脚にネロ、それぞれのリードをくくりつけて、ようやくペンションの中へ。テラスから一旦駐車場に下りて、玄関へと回る。地面よりも一段高いところに建つから、玄関の前には立派な階段がある。木製の階段を踏みしめるたびに、ぎぎっ、ぎぎっと木の擦れる音がする。

玄関を入って左手が、ダイニングホール。吹き抜けの広い空間は、プレイルームも兼ねている。スリッパを脱いで絨毯の上、背の低いテーブルに向かって腰を下ろす。お茶を運んできたオーナーと、再会を喜びながらの談笑・・・が、どうしても“震災”の話になってしまうのは仕方のないところか。それでも、ryoの姿は、どうにも不思議なものに映るようで・・・しげしげと眺めては、言葉少なくうなずいていた。

夕食までの間に“スパティオ小淵沢”まで出かけて、風呂をすませる。午後6時30分、腹をすかせた三人に、リイさん自慢のコース料理が運ばれてくる。メインディッシュは魚と肉の贅沢さだ。オーナーが、給仕をしながら、さらりと話を落としていく・・・変わらない夕食に満足した後は、木製の椅子から絨毯の上に席を移して、しばし休憩。程なくオーナーが「ryoが好きだと聞いたから」と、水割りの用意を盆に乗せてきた。三人揃って・・・ちょっと高そうなウイスキーをご相伴だ。

初めて来たときは・・・ちょうど軽井沢で結婚式を挙げた次の日、ryoはまだkeiのお腹の中だった。それが、どうだ。ウイスキーをロックで呷り、ボードゲームでは小癪な知恵を巡らせて、オーナーをやりこめる。オーナーもリイさんも、感慨深く、その“時の流れ”を想わずにはいられないだろう。弾む話と比例するように酒量も増えて、いつしかボトルも空に。時計は11時を回っている。楽しい時間もここでお開き、二階に上がって、それぞれの部屋に戻っていった。

部屋の窓を開けると、雨脚が少しだけ強くなっていた。明日も予報どおりに雨なのだろう・・・木々の枝葉に落ちる雨音も、にぎやかだ。23年前、三人で訪れたのも5月の終わりだった。あの頃、思い描いていた未来にしては、どこにでもある、ありふれた未来。それがいいのか悪いのか。あの日、雨は・・・降っていなかったような気がする。