懐かしさが“いいものばかり”とは限らない

味の良し悪しが語れるほど、美食家じゃない。食道楽でもないし、まして舌が肥えているなんてことは・・・まったくない。自分の腹を満たすぐらいなら、バイクにガソリンを入れる・・・昔から、そうだ。そんなワタシにもわかるんだから、ここの社員食堂はもっと味を追求してもいいはず。長く通っていた工場で、ひさしぶりに中華の“Bセット”を味わって・・・本気でそう思った。

チャーハンと、揚げ餃子の入った酸辣湯(サンラータン)スープ。それに、コールスローに春巻きと鶏の唐揚げが盛りつけられた小鉢のセットは、定番のメニューだ。プラスチック製の四角い皿を受け取り、古びた給茶器でお茶を入れて、うろうろと座るところを探す。見事なまで“まばら”に席が埋まっていて、だだっ広い食堂の端まで歩かされてしまった。

“焼き飯”とは言えない、炊き込みご飯のようなチャーハンを、酸味の広がるスープで流し込む。外で食べる昼飯と、値段がそう変わるわけでもないのに、どうも味がわからない。何かが足りていない気がするけど・・・一体何が・・・。春巻きを半分ほど食いちぎって、もう一口チャーハンを食べて・・・ひとつだけわかったことがある。「煮る」「焼く」「揚げる」「炒める」が、やっぱり大切だって。

ちゃんと焼いていれば、焦げた苦みと香りが。ちゃんと炒めていれば、こってりと食材になじんだ油が。そういう普通の“味”が、この中華には入っていない。“まがいもの”の調理で大量生産しているから仕方がないのかな?ばらついた仕上がりだけど、ちゃんと味のする下町の昼飯。都内通勤も半年が過ぎて、手に入れた大事なもののひとつだ。