人生初“つけ麺”~後編

黒褐色の格子戸の向こうに、カウンター席が6つほど。体を横にしないと通り抜けできないくらい、極端に間口が狭い。ちょうど昼を過ぎて行列こそ無くなっていたものの、カウンターはしっかり埋まっていた。ただ、席は、2階と3階にもあるらしく、すぐに注文を聞かれる。入口で注文して、階を上がっていくのが“作法”のようだ。大・中・小の三種類は、麺の量が違うだけで値段は同じ。“先輩”は、体格に相応しく迷わず「大」。ワタシと言えば、「とりあえず中で」と・・・まったくの日本人だ。

階段を上がって2階、入口に近いカウンター席に並んで腰かける。話し込む間もなく、初めて見る“つけ麺”が運ばれてきた。小さな突起がざらっとした肌触りの腕に、温かいつけ汁が注がれている。浅めの皿には、“湯がいた”だけのような麺が、無造作に盛られていた。ごまだれに近い胡桃色のスープは魚介。かつおが味にも香りにも姿を見せるほどの濃さで、思わず飲み干してしまいそうなくらい、舌に合う。ほぐれたチャーシューも柔らかく、スープによくなじんでいた。その汁に、ラーメンともうどんともつかない太さの麺をくぐらせて、汁を滴らせながら口に運ぶ・・・。

・・・素直に「もう一度食べてみたい」と思わせる味は、後を引く旨さだった。腹が膨れれば何でも良かったはずなのに・・・あちこち食べ歩いているうち、すっかり贅沢になってしまったらしい。行列ができるのには、ちゃんと理由がある。隠れた味処を探すのも楽しいけど、人気の味を試すのも、悪くはないものだ。食わず嫌いを返上して、たまには行列の最後尾にも並んでみないと・・・人生、損するだけかもしれない。