八日ぶり

居並ぶ右折車に、いつもの倍以上信号待ちをさせられて、調子が狂った。田舎道の少ない信号にも、ことごとく停められて・・・ツイていない。駐車場に着いてから駅まで急ぎ足、何とかいつもの“区間急行”に間に合ったのは良かったけど・・・朝方に人身事故があったらしく、田園都市線への乗り入れが中止になっていた。後続の“長津田行き”の急行も、今日は北千住駅で折り返し運転だと駅員が、がなっている。おかげで電車待ちの列も混み合っていて・・・まったくツイていない。

雨に汚れて、お世辞にもきれいとは言えない車両は、それでも時間どおりにやってきた。八日ぶりの伊勢崎線。そして、八日ぶりのKISS。ヘッドホンからジーンの“だみ声”が聞こえてくる。吊り革につかまって弱冷房車両の真ん中・・・動き始めてすぐ、そこだけ何故だか“詰まっている”ような違和感を覚えて、列を替えてみた。カップルの目の前でどうかと思ったけど、不思議と居心地がいい。おまけに・・・何気なく動いたのが良かったのか、春日部に着くと、彼女の方が席を立ち、降りていった。割に早く、ツキが戻ってきたようだ。

彼の隣に腰掛けて、持ち上げた視線の先に・・・白のチノパンが眩しい女性。右肩に掛けた大きめのショルダーバッグは、皮革のシワが細かく入った金色。少しくすんで見えるのは、もちろん汚れじゃなくて風合いを出すための造作だ。“ひとつ結び”のリボンで飾られたパンプスは、バッグと同系色。少しだけヒールがついている。

さらに顔を上げると、大きく胸元が開いた、焦げ茶のタンクトップ。細い横縞が織られた紺色のブレザーがその上にかかる。そして、正面には黒いボタンがひとつだけ。薄紫に近い花色をしたマニキュアが、組まれた両腕の指先を明るくしている。白いベルトの時計が左手に巻かれ、同じ白色のヘッドホンコードが、バッグから耳元へと延びている。首にかけられたクロスは、ターコイズグリーンにひび割れ模様。タンクトップに似た色のチェーンが、大小の二重に巻かれていた。

北千住駅に着くと、左手のドアから降りていく彼女。後ろで束ねた髪が、肩の線より下に落ちている。よく見ると、バッグと同じ落ち着いた金色の“シュシュ”。その後ろ姿は・・・腰イチが高く、凛としていた。