“原付”レディー

漂う霧雨が、頬に触れる。傘を差していても、何となくしっとりとしてしまう濡れた朝。通りの先に見えるはずの東京タワーも、第二展望台から上が、雨に煙っていた。9時を回っても、都心のクルマの列は流れが悪い。梅雨空に押さえつけられているように、少し進んでは停まるを繰り返している。片側3車線が、何かもったいない。

列の並びを縫うように、一台の原付バイクが泳いでいく。見ればOL、黒のジャケットから白いシャツがのぞいている。同じ黒のタイトスカートからは、長くて形のいい脚が延びて・・・ヒールがバイクのステップを掴んでいた。そう、スクーターじゃなくて、足を広げて乗る“普通”のバイクだ。濡れるのもお構いなし、ちょっとたくしあげたスカートで、何事も無かったかのように走り抜けていった。ドラマのひとコマでも見ているような気分だ。

その後ろから、250クラスのバイク乗りがやってきた。鮮やかな赤いレインウェアを着込んでいる。続いて黄色、その次は橙色・・・原付の彼女を見送ってからでは、彩り豊かな姿が、あまりにもきっちりと派手過ぎて・・・可笑しくなってしまう。

午後になっても、はっきりしない空模様。昼過ぎに、一度は雨も止んで、雲にも濃淡が見えていたけど・・・気がつけば、一面の灰色に逆戻り。それでも、そぼ降る雨にめげず颯爽と歩いていれば・・・また“原付レディー”に出会えるかもしれない。雨だって、いつまでも降り続く訳じゃないから。