夏空の下で~その3

ヘルメットとガードが入ったプラスチック製の箱。イスにガス缶、モトクロスウェア・・・積み込んだ時とは反対に荷物を表に出してから、KX、RMと砂利の敷かれたパドックに降ろしていく。9時を過ぎているのに、社長のブルはコース整備の真っ最中・・・まったくガツガツしたところがない。この“ゆるい”感じは、他ではそう味わえない。先客の連れらしきハイエースが1台、パドックに入ってきたところで、おもむろに着替え始める。今日はoneの“Punked”。何かと“いわくつき”と囁かれる、イバMOTOで手に入れた新品のウェアを選んできた。せっかくsaitoさんが引き当ててくれたウェアだ、いわくつきのままにしておく訳にはいかない。ただ、今日だけは・・・選択を誤ったかもしれない。ryoはすっかり着古したanswerのメッシュ。陽射しはどんどん強くなるばかりで・・・こちらもメッシュにしておくべきだったかな?

「ブーツって・・・こんなに重たかったっけ」と、ずいぶん空いてしまった時間を足下に感じる。歩くのにも、しっかりと足を上げなきゃならない。軽い跳躍でブーツとウェアに体を馴染ませていると、そんな脇を一台のマシンがすり抜けていく。一番にコースへ飛び出していったのは・・・中学生だろうか、まだあどけなさの残る坊主頭の少年。子どもと言っても、マシンはCRF250Rだ。ホームのライダーらしく、ゆったりとした動きで最初の大坂を踏みしめていく。待ちかねたように、ryoのKXが、くぐもった排気音を吐き出した。森の静けさに、4ストと2ストの音色がこだまする。

チョークノブを上に引き上げ、少し動きの渋くなったキックペダルを右手で引き出して、右足の底をあてがう。軽く小刻みにペダルを上下させ、足の裏が引っかかるような圧縮を感じた瞬間に踏み下ろす。それも、ゆっくりと。エンジンを掛ける気はない。まずはピストンとシンリダを馴染ませてからだ。四、五回、そんなことを繰り返してから、今度は素早く蹴り下ろす。右手を少し捻ってから、何度目だろうか・・・何か詰まったような鈍い排気音とともに、RMが目を覚ました。聞き覚えのある柔らかな音・・・コイツにとっては、はた迷惑なひと月半だったに違いない。

<次回いよいよコースイン・・・ひと月半ぶりの感触は如何に?!>