夏空の下で~その5

「全然開けられなかったら・・・」の不安は消えたけど、太ももの付け根や尻の周りの“違和感”は、消えるどころかますます気になるばかり。走っている時と違って、段々とヒリヒリしてきた。ただ、手のひらで股の辺りを触っても、モトクロスパンツが濡れていることもなく、サラサラしている。何かちょっとおかしい。イスから立ち上がって、尻に風が当たると、少しだけ痛みが引いていく。何かに“かぶれた”ような、この感じ・・・何気なくハンドルに手を添えた時、ようやく理解できた。

ガソリンだ。タンクキャップが少し浮いていて、黄色のタンクには、ガソリンのこぼれた跡が広がっている。タンクだけじゃない。シートにもガソリンが飛び散っては、まだらな模様を描いている。パンツは・・・濡れたんじゃなくて、大量のガソリンを吸い込んだのだ。キャップを閉め忘れた自分が悪い、自業自得だ。とりあえずモトパンとインナーパンツを脱いで、濡れタオルを手に“敏感な場所”を拭き上げる。もちろん、Bongoの荷室でだけど・・・。

モトパンは裏返して、RMのシートの上に。浸ったガソリンを、陽射しと風で飛ばしてやる。その間に、着替え用の下着に履き替えると、さっきまでの感覚が嘘のように無くなっていった。まったく・・・自分を責めるしかないから、嫌になってしまうけど・・・これでウェアと一緒に“厄払い”ができたと思えば、安いものだ。見上げれば、真っ青に塗られた空に雲が白く流れている。木々の若い緑からはウグイスの声が響いて・・・ココに期待する情景が満ちていた。

“下半身”も落ち着いて、視線を持ち上げるだけの余裕が出てきた二本目。コースの変化にも、ようやく目がいくようになった。インフィールドの後半、低くて長いテーブルトップしかなかった短い直線に、ずいぶん手が入っている。直線に出る手前の左コーナーは、頂点に土が盛られていて・・・巧いライダーなら、曲がりながら跳んでいくはずだ。すぐに小さなテーブルトップがあって、その先にもうひとつ、こちらは大きなテーブルトップになっている。このテーブルトップを越えると、奥に向かうフープスへの右コーナーにつながっていく・・・。

そり立つようなテーブルトップは、全体に盛られた感じ。斜面も長くて、何も気にせず跳び出すと・・・かなり高く放られることになる。FMXの聖地らしく、アクションジャンプをするにはちょうどいい高さなのかもしれない・・・けど、心身ともに鈍った今のワタシには、少し怖くて、3周の間に一度ぐらいしか思い切れない。そんなRMをあざ笑うかのように、目の前でKXが高々と舞い上がっていく。悔しいけど、今やジャンプはryoの方が一枚も二枚も上手だ。

<次回に・・・まだ続く>