夏空の下で~その6

ryoよりも遅く出て、早く戻って・・・だらしない午前中だった。抑えの効かなくなった腕をさすりながらRMから離れると、記憶すらおぼつかない。転んだわけでもないのに、走っているときの自分が、よく思い出せない・・・軽く脳震盪でも起こしているかのようだ。気持ちと体のズレを補正したくても、気分が悪くなるくらいにフラフラしていて・・・もう一本は無理だった。お昼まであと10分。元々少ないマシンがすべて火を止めて・・・森は森らしい静かさに包まれていく。かすかに聞こえる笑い声の他は、風の音しか届かない。

昼を境にして、ココの住人達が集まってくる。これも、いつものことだ。Bongoの隣に入ってきたのは、トヨタのピックアップ。積まれたYZ125は、シートの“肉”がすっかり抜かれている。細長い茶色の髪を、カチューシャで後ろに揃えて、「キモチワルー」を連発。夕べはだいぶ呑んでいたんだろう・・・聞けば、昨日はこっちも雨にやられたらしい。だから“仕切り直し”なのだとか。こういう陽気で、人なつっこい人種が多いのも、ココのいいところ。しばらく仲間内にくだを巻いていたと思ったら・・・いつの間にか、トンボ片手に“ランプ”周りの整備を始めていた。

午後一時。それを誰かが教えてくれるでもなく、ますます高くなった太陽の下、森の静寂を崩したのは、CRF250Rだった。やはり子どもは、どこでも元気がいい。つられてウェアを着込み、ブレストガードを頭からかぶって・・・午後のコースに出ていく。ryoが、奥に消える左ターンの手前でショートカットを繰り返す。とことんジャンプを攻め続ける気なのだろう。こちらは・・・気持ちと体の動きを合わせるのに、必死で全域を周回する。

<あと少しだけ・・・次回、最終話に続く>