夏空の下で~最終話

午前中に比べれば、少しは速度も上がっているんだろうか・・・くたびれてくると、途端に体が置いていかれそうになる。そんな遅れ気味の体が、そのままスロットルを煽るもんだから、たまらない。勾配のついたフープスで、何度か竿立ちになる。事なきを得て加速を続ける耳元に、「そう簡単にはまくれませんから」とoki-sachi師匠の声が聞こえた気がした。あの時よりは・・・それでも上手く走れているはずだ。

ちょうど3時。それまで狂ったように飛び跳ねていたryoが、フルコースを周回して戻ってきた。「走り過ぎた~」と赤ら顔で、にこやかに笑っている。これで“共倒れ”の心配は無くなった。入れ替わるようにコースへ出て、最後の3周を真剣に走る・・・しかし、さすがに体は嘘をつかない。コース脇で見ていたryoが言うには「膝は開いているし、シートに座ったまま」らしい。まったく、「楽しい気分に水を差しやがって・・・」。

腹がいっぱいなような、まだ足りないような・・・そんな“いい塩梅”なところで、大きく転げ回ることもなく、本日の走行を終える。パドックから見ると、ちょうどコースの反対側、フリースタイルの“神業”ジャンプを眺めながらの贅沢な後片付けが始まる。なかなか片付かなくて困りものではあるけど・・・これも、いつものことだ。途中、井戸で顔を洗っていると、左の手のひらに水が滲みて痛みが走る。中指のマメがつぶれていた・・・。きっと腕にばかり力が入っていたんだろう、ryoの見たては間違っていなかったようだ。

陽が森に隠れる前、「まだまだ、これから」の空気が充満しているコースを後にする。すぐにまた来るような、そんな予感が胸をよぎり、住人達の「おつかれでした~」の響きが、ビッグジャンプもフープスも、次はもっとうまくやれそうな気にさせてくれる。いつ来ても元気になって帰れるのが、ココのいいところ。ちょっと遠いけど・・・やっぱりすぐに舞い戻ってきそうだ。ミラーを覗くと、鼻の頭と頬が赤くなった横顔の向こうに、長い上り勾配が揺れていた。