図書館と本屋さん

図書館の二階。ガラス張りの外に、人とクルマが音もなく動いている。本の頁をめくる音、司書の女性が台車を転がす音、こうして紙に文字を書き記す音・・・いつもなら聞くこともしない音に囲まれて、しずかに時間が過ぎていく。ガラス越しの道路は、ただ白くて、輪郭もなく、ぼやけて、揺れていた。その上を、器用に人が歩いている。

光と音は、しっかりと大きなガラス、そして階段の上にできあがった空間にさえぎられたまま。さっきまでの直射日光と、こらえ性のないタクシーのクラクション・・・遠くに消えた夏のかけらは、HAGLOFSの表面に少し残っているだけ。読みもしないハードカバーの本を持ってきては、ペラペラとページを繰っていく。仕事先からの電話は、まだ無い。

確かに隔離された本の世界は、落ち着いて時間を浪費できる。ただ、どこか物足りなさを感じてしまうのは・・・匂い、真新しい紙に滲み込んだインキの匂いがないからか?ひなびた部屋に、生命の香りは薄い。反対に本屋をぶらついていると満ち足りてくるのは、そこに本があるからじゃなくて、新しい“息吹”にあふれているから・・・だから、意味も無く、立ち読みしてしまうんだろう。図書館よりも・・・本屋さんがいい。