寸胴の飯椀、なかなか気に入っている~前編

山口の萩にツーリングした時、ひとつ後悔したことがある。それ以来、迷った“もの”には手に入れるようにしているけど・・・他の“もの”はいざ知らず、この時に逃した“一品”を見つけることは、なかなかできずにいる。

GWの休みに、うまく有給休暇をくっつけて、本州の西の果てまで足を延ばしたのは・・・モトクロスを始める、だいぶ前のことだ。車名のとおり、ガソリンタンクからサイドカバー、フロントにリヤフェンダーそしてテールカウルまで、艶消しの黒に染められたDucatiの「Monster900Dark」と一緒だった。こいつは北海道以外、四国も九州も、そして本州最北端へも出かけた、歴代の愛車の中でも無類の“遠乗り”野郎だ。

萩と言えば、焼き物の町。何かと“催事”の多いGWにあって、益子と同じように萩でも、盛大に焼き物市が開かれていた。益子の方がにぎやかな感じだけど、土塀の間に格子戸が続く細い小径。京を思わせる、しっとりとした町並みの風情が、長旅もあって心地よかった。焼き物市会場からは少し離れた、そんな通り沿いの小さな店だった・・・店の名前の記憶はないけど、店先に重ねられた飯椀の形は、ぼんやりと覚えている。

何と名付けられていたのかさえ忘れてしまったけど、古い日本の食卓に合う「飯からお茶までこれひとつで」と紹介されていたことだけは、はっきりと思い出せる。子どもの頃は、食事のすんだ茶碗にお茶を注がれて飲んでいた・・・そんな郷愁じみた感覚ではなくて、一つの椀ですべて賄うところに、不思議と心惹かれた。くすんだ茶色と、ざらついた手触り。碗の底がまっ平らだったこと、手のひらになじむ大きさだったこと・・・ただ、思い出せるのは、あまり多くは無い。

あれから12年・・・パソコンの調べものに飽きて、あちこち“寄り道”していたときのことだ。気になる陶器から、「麦山窯」という窯元のページに行き着いた。愛知県瀬戸市。こちらも焼き物(せともの!?)で有名な町で、大正11年から和食器の窯元をしている老舗らしい。いわゆる“逸品”を扱う店と違って、業務用を主としているところが素人には近寄りやすかった。楽しげなページの中で、その寸胴の器が「やきしめ飯器」と紹介されていた。

<後編に続く>