夏らしく、アツく!アツく!~その9

kazuが去ったコースで、もう一度、ryoと絡み合って走る。「これが最後」とばかりに、全開で上り坂を併走するナノハナカラーの二台・・・と言っても、下から見上げたのでは、埃にまみれて黄色も緑色もよくわからないはずだ。それは走っている二人も同じ。とりわけスタートしてすぐの上りは、先行しているKXがどこにいるのかさえ、わからない・・・。苦手にしているテーブルトップを跳び上がれば、後は“飛距離”の差だけだ。届きはしないけど、近くに見えているryoの背中に満足しながら、最終コーナーへ。その先のテーブルトップも“差”がつくところだけど、KXがリヤブレーキをかけて斜面をなめていくのが見えた。肘を曲げたままの左手を挙げている。良い頃合いだ。二台揃ってコースを離れるのも、ひどくひさしぶりな感じがする。

SHOEIVFX-Wを脱いだryo。唇に沿って丸い茶色の輪が残っている。笑う口元から覗く歯が、気持ち悪いくらいに白い。白地に鮮やかな橙のTHORのウェアも、すっかり土埃にまみれて、茶色に変色している。4時も近いパドックには、すでに“おしまい”の雰囲気が流れている。転倒を喫したkazuは、さっぱりと普段着に着替え終わっていた。ジャージの下のガードを外して、KX85ⅡのガソリンコックをOFFにするryo。そのryoの肩をポンと叩いて「お疲れ!」と声を掛ける。これで多少怪我をしても帰れる・・・休むのもそこそこに、masaruちゃんと最後の一本を走りに、パドックを出ていく。

全力で5周は走っただろうか・・・下りのギャップに体の反応が鈍くなってきたところで、RMのスロットルを閉じて、テーブルトップの上に乗っかる。そのままスタート地点を大きく右に回って、パドックへと帰る。これでワタシも“おしまい”、みんなはコースの傍らで首を傾げて、FMXに夢中だ。受付の脇で井戸水を出しっぱなしにして頭からかぶっていると、ようやく頭が回るようになってきた。ヒグラシの声が、耳に強く聞こえてくる。その音色と日の陰った森を背にして、FMXライダーの“飛行訓練”にも勢いが出てきた。いつもそう、ここからが本番だ。顔を洗って戻ってくると、tasakiパパにmachi-sanが、腕組みしながら、華麗な放物線をただ眼で追っていた。

<あと一回で“その10”・・・今回は切り良く、最終話は次回に>