7月最後の日曜日~後編

誰もがリタイヤを確信した中、ライダーとマシンは違っていた。おもむろにマシンにまたがり、ハンドルを二度、三度と左右に振ってから、左手でセルボタンを押し続ける。キュルキュルキュルルルッ・・・セルモーターの回る音が、遠く、コースの脇で見守る耳にも聞こえてきた。次の瞬間・・・シリンダヘッドに落ちたガソリンを吐き出すように、詰まった排気音が雨に弾けた。思わず両手を突き出して、走り去る背中に声をかける。周りも総立ちで、拍手喝采だ!その思いが届いたのか、左手を大きく一度振ってから、ヨシムラ独特のひび割れた排気音が、のびやかにスプーンカーブから消えていった・・・。

初めての8耐・・・あれから、もう20年が経った。節目の今年は秋吉/伊藤真一/清成組が優勝したらしい。リザルトをみると、38秒差で”YOSHIMURA SUZUKI Racing Team”が2位に入っている。スズキ贔屓、ヨシムラ贔屓としては、悔しい、残念な結果だ・・・。昼下がりの新宿。陽射しが戻った街は、光と色に満ちている。週末には、真夏日の予報・・・8月になったばかり、この辺りで夏も“やり直し”だ。この季節、空が薄暗くなる時分は、並列4気筒の柔らかな響きが、よく似合う。