イチ押しが“石川秀美”だった頃の話~前編

イニシエーション・ラブ』という小説を読み終わったばかり。物語は80年代を舞台にしていて、覚えのある光景がそこかしこにちりばめられていた。引き込まれていったのは、そうした時代背景もあるはずだ。

初めてCDに触れたのも、ちょうどその頃だった。ポータブルCDプレイヤーは時代の走り、オイルメーカー“Castrol”の懸賞に当たって偶然手に入った代物だ。フロントローディングではない、天板を開けてディスクを入れるタイプのもので、SONY製だったような。当然CDを持っているわけはなくて、懸賞に当たった事実を理解すると、急いで“レコード店(この時代はこう呼んでいた)さん”にCDを買いに行ったっけ・・・。

主流はあくまでレコード。CDといえば、売場の片隅に“ほんの少し”陳列されているだけだった。雑誌で、その再現性やら無雑音の素晴らしさは読んでいたこともあって、メロディアスで緻密な音作りがされているアルバムを探してみる。そして、初めてのCDとして選んだのがREOスピードワゴンの『禁じられた夜』、11枚目の大ヒットアルバムだ。LP盤とは比べものにならない、ライダーズジャケットのポケットに収まってしまうほどの大きさは、さすが“コンパクト”と言うだけはある。

RZ250の大きく柔らかな振動すら気になるといった感じで、ずいぶん慎重に走らせてアパートに戻った記憶がある。今思えば、おかしくて仕方がないが、当時は大真面目だった。部屋に入るなり、ビニールの包みを剥がすのももどかしく、ケースからCDを取り出す。中央を押しながら取るのもわからず、しなるCDが割れるんじゃないかと、ドキドキしたっけ・・・。

<後編に続く>