8/7のキオク~2

勘というものは、簡単には戻らないようだ。松本インターに出たいだけなのに、あっさりと迷い始めた。地図をよく見ないで走り始めたことに、後悔はしても、こう暑くては停まる気がしない。道の広さとクルマの流れを頼りに走り続けても、一向に緑色した「松本入口」の看板が見えてこない。そろそろ焦ってきたところで、赤信号の交差点にクルマの長い列。その最後尾に、飾り気のない、真っ白な日産のCaravanが停まっている。どう見ても“商用”車、道を訊くには打ってつけだ。右折車線から、運転席の真横にEXC-Rを寄せて・・・左手で窓を叩く。

営業マンが座っているとばかり思っていたら、栗色に髪を染めた若い女性だった。少し大きめな二重の瞳が、ちょっと好みかもしれない。予想は外れたけど・・・とりあえず“当たり”だ!ゆっくりと下りるパワーウインドウに向かって「松本インターに出たいんですけど・・・」と訊ねる。すぐに、目の前の交差点を指さして「そこを右に、右に曲がって、松本の駅に出た方がいいかな・・・駅前も右なんだけど・・・で、そこから・・・」と、信号が青になっても、言葉が途切れない。「とにかく右に行けばいいんですね?」と左手を軽く振って、caravanから離れると、彼女もようやく前を向いて走り始めた。

彼女の言うことは正しかった。さすがは“松本”ナンバーだけのことはある。松本駅前を右に曲がると、目の前の交差点が国道158号線。左に曲がれば、上高地・高山方面だ。松本インターを抜けると、完全に一本道になる。松本に近い波田というところは、スイカが特産らしい。沿道の右手に、スイカ売店が、ポツンポツンと姿を見せる。先を急ぐのでなければ、ちょっと味見をしていきたいところだ。新島々を過ぎると、道も緩やかに上りとなる。緑が濃くなって、気温が少しずつ下がっていく。

奈川渡ダムのはるか向こう、黒くよどんだ雲が、峰を押さえつけている。稜線もすっかり隠されてしまった。国道158号線は、刺激が少ない道だ。それでも、時折、規格違いの幅広な道路が現れては、驚かされる。時は流れている・・・雨が降っている時と同じくらい、漏水に濡れていたトンネルも今は昔・・・。奈川渡ダムから高山方面へと続く隧道も、広く高くなって、真ん中には、まだ新しいセンターラインも見える。暗がりの中、濡れた路面の上を走る気分の悪さは・・・遠い昔の話だ。

<次回に続く>