8/8のキオク~1

<Summer Vacation~8/8の続き>

岐阜と長野の県境に建つ「峠の茶屋」は、風雪に耐え過ぎたのか、外塀の塗装がすっかりはげている。新しくトンネルが出来たおかげで、その役目を終えたように、ひっそりと道端に佇んでいるだけだ。手を伸ばせば、空の青に触れそうなくらい・・・山の緑を胸に吸い込んで「とりあえずコンビニまで」、色に溢れた峠道を二台で下っていく。細い旧道の下り、XR230には都合のいい道だ。EXC-Rのバックミラーの中、赤い車体が右に左にと傾いて走る。昨日の雨の名残か、日陰の路面は、しっとりと濡れて光っていた。

平日とは言え、社会人の夏休みも始まる季節。上高地へと向かうタクシーや観光バスが、対向車線を賑わしている。夏の眩しさの中からトンネルに入ると、一瞬の暗闇に行き場を見失いかける。明と暗の繰り返しに目が馴染み出した頃、奈川渡ダムに差しかかった。信州中野の先、渋温泉までは然したる距離は無い。マシンを停めて、その上を国道が通る“アーチ式ダム”をちょっと見物していくことにした。梓湖側から国道を渡って、高さ150mのコンクリートの壁を真上から覗き込む・・・高所恐怖症のワタシはもちろん、隣のryoも、足がすくむと言う。ダムの真下を走るクルマが、子供のおもちゃのように見えた。

新島々の駅を過ぎて右手に、ようやくコンビニが現れた。山から下りてきた体に、遠慮なく太陽が照りつける。ヘルメットの内装も、汗を吸って冷たく濡れていた。噴き出す汗を腕で拭うようにして、店の中に入ろうとすると・・・入口のそばに、人待ちのタクシー。客は中で買い物でもしているのだろうか。ちょうど目の前にスイカ売店があって、気にもなっていたところ。ためしに、初老の運転手に訊ねてみた・・・「スイカ、買って帰れないんで、どこか食べさせてくれるところって、あります?」と。すると「ここから5分も走ったところに“フルハタ”と言う店がある。そこでなら食べさせてくれるはずだ」と、「タクシーの運転手に教えてもらったと言えば大丈夫だ」と、力強い口調で、にこやかに答えてくれた・・・。

「ここのスイカは上手いから、食っていけ!」と言われては・・・コンビニでトイレだけを借りて、再び国道158号線を東に走り出す。キョロキョロしながら、5分以上は走っただろうか・・・タクシーの運ちゃんが教えてくれたとおり、信号の手前に「古畑園」の看板が見えた。一軒、ガソリンスタンドを挟んだ先に“P入口”とある。汗でへばり付いたクシタニのレザーパンツが、極端に足付きを悪くさせて、あやうく“立ちゴケ”しそうになる・・・雑草の生えた土の上、何とか左足で踏みとどまって、EXC-Rから体を引き剥がす。荷物満載のXR230が、その右隣に並んだ。

<次回に続く>