8/8のキオク~4

県道に出て、予定どおり、麻績村から国道403号線千曲市に向かう。聖高原を過ぎて、千曲高原を縫うように走る道からは、眼下に千曲川の流れと、そこに寄り添う千曲の市街地を一望できる。緑の敷物の上に、道路と小さな建物と川の流れ、その奥に連なる山々を並べた景観。見惚れていると、曲がりきれずに転げ落ちてしまいそうだ。力の無いXR230を器用に操り、スタンディングで千曲の町を見下ろしながら、後ろを着いてくるryo。そんな坂の途中に、見晴らしの利くパーキングを見つけた。右にウインカーを出して、クラッチレバーを握りしめた途端、EXC-Rのエンジンが止まる。また“ガス欠”だ。耳をすませば、タイヤの転がる音の上に、ミンミンゼミの声が重なり合っていた。

千曲高原から千曲川の辺まで下りてくると、町全体が重ったるく揺らめいて、静かだった。大きく息を吸うものためらわれるほど、空気が熱せられている。片側一車線で長野市へと北上する国道18号線も、クルマが列を作って、よどんでいる。ガソリンを入れてしまえば、2ケタ国道にこだわる必要も無い。更埴から横に入るつもりが、早々にウインカーを出して、再び国道403号線に戻っていく。ただ、大型トラックの姿は見なくなったものの、クルマの数は多いまま。行列にならないだけマシなのかもしれない・・・Tシャツの袖から伸びる、灼けた両腕に、刺すような陽射しがぎらついている。

国道を外れて、千曲川の土手を上がっていくクルマが続いている。目の前を走る“長野”ナンバーも、左へと逸れていった。そんな地元のクルマの流れにまかせるように、EXC-Rも土手に上る・・・旧道への寄り道といい、こんな時、後ろは何を思っているのだろう・・・。臨む河川敷は広く、川面はその先、かすかに太陽の光を跳ね返している。信号も無く、川風が渡る中、堤防の上の簡易舗装路を、ウネウネと走っていく。しばらくして、流れのまま土手から下りていくと・・・国道403号線に合流。それでも、混雑した区間は避けられたみたい。ちょっぴり“勘”が戻ってきたようだ。

ここまで来れば、渋温泉は目と鼻の先。昨日のような積乱雲が山を隠しているわけでもないし、“栗好き”が素通りするのはもったいない。案内板に従い、T字路を真っ直ぐに進んで、国道403号線を右に曲がる。道はすぐに、“栗と北斎と花のまち”小布施に入る。栗の外皮のような、濃い茶色の格子戸やら木塀やらが、落ち着いた城下町を思わせる、小ぎれいな町並み。周囲5kmほどの小さな町を、それでも、なかなか散策する機会に恵まれず・・・今日も“通過点”、のんびりとはいかない。ただ、栗味の冷たいものを味わいたくて寄り道しただけだ。

<次回に続く>