8/8のキオク~6

長野オリンピック以来、立派なバイパスになってしまった旧「志賀草津道路」、今は国道292号線の長い上り坂を走る。「戸狩・湯田中IC」で左に下がり、案内どおり横湯川を渡って、右に折れていく。渋・湯田中温泉は、その川沿いに延びる細長い温泉郷。上流に向かって、湯田中、渋、そして猿の入浴で有名な地獄谷と続いている。湯田中を過ぎると、大きな赤い「和合橋」が横湯川に架かり、その向こうに、背の高い鉄筋の建物が見える。屋根に行書体で赤く「西正」と書かれた看板が乗っかっている。「あっ、あそこだ」。川沿いに建つおかげで、迷うことも無く、今宵の宿に到着だ。

ちょっと古びた旅館だけど、小柄で気さくな女将さんの出迎えに心が和む。どうやら川沿いは裏口のようで、反対側に屋号の入ったガラスの引き戸と下駄が用意されていた。裏口の通路にEXC-R、XR230と縦に並べて置かせてくれるようで、それだけでも気分がいい。ブーツを脱いでスリッパに履き替えて、3階の305号室に通される。8畳の和室には、前室と、窓際に広縁まで・・・広々とした空間に、横湯川のせせらぎが止むこと無く聞こえている。お風呂は“源泉かけ流し”。荷物を放り、汗と埃に汚れた服を浴衣に着替えて、5階の展望風呂へと上っていく。

夕暮れにはまだ早い。窓には陽射しが入り込んで、陽も高いうちから・・・の贅沢なひととき。明るい浴室からは、鉄分を多く含んでいるのか、独特の錆びた臭いとかすかな硫黄臭が混ざりあった、体に良さそうな湯気が流れている。軽く汗を流してから、湯船に足を入れる・・・少し熱めの湯は、刺激も少なく、やわらかな肌触りだ。不用意に両腕を湯に浸けると・・・陽に灼けた肌に“熱”が刺さって、思わず呻いてしまう。隣でryoも、同じように大騒ぎしている。他に誰も居ないからだけど・・・二人、バンザイしながら浸かっている姿は、どこか間抜けで、滑稽だ。

風呂上がり、「とろろざるうどん」と「ユクモノ渓流冷やしそば」で晩飯をすませると、宿に戻って畳でゴロゴロ・・・やはり泊まるなら和室に限る。そのまま二人ともウトウトしてしまったようだ。気がつけば、とっぷり日も暮れて、街灯が薄い橙色の光を放っていた。まだ寝ぼけているryoを捨ておいて、「福栗焼き」の包みをゆっくりと引きちぎる。栗を模した薄茶色の衣の中に、小豆色した栗あんがたっぷり練り込まれている。その真ん中に黄金色した大振りの栗が一粒。周りの“あん”に負けない、ホクホクとした甘みは、採れたての栗を頬張っているようだ。こんなことなら・・・もうひとつ買っておけばよかった。

<次回に続く>