8/9のキオク~3

世話になりっぱなしの「西正」に短く礼を言い、予想をはるかに超えて長居になった渋温泉を出ていく。和合橋から延びる坂道を上って、国道292号線(やっぱり「志賀草津道路」と呼ぶ方がしっくりする)に入った時は、もう午後の一時を回っていたはずだ。本格的な夏休みの前、平日の志賀草津道路は、クルマもまばら。麓を走る区間は、片側二車線にしてもいいぐらい、道幅も広くて・・・気分良く走っていられる。まあ、急く旅ではないし、右手もいつになく控えめだ。路面ばかり見ていたあの頃と違って、周りの緑の輪郭がはっきりとわかる。それでも、しばらく走ると・・・やっぱりクルマの後ろに追いついてしまう。

煽っているわけでもないのに、たいていのクルマは左に避けて、道を譲ってくれる。ツーリングに出ると、いつもそうだ。日常の殺伐とした空気は、山の緑に消えていくのだろうか・・・おかげでスロットルを握る右手も、ずいぶん優しくなる。右にウインカーを出して黄線を越えて、左手を軽く上げながら、もう一度黄線をまたぐ。バックミラーで白いクルマが小さくなっていく・・・でも、そこにryoの姿はない。勾配のある上り坂・・・非力なXR230はうまく回転を合わせていかないと、クルマの前に出ることも難しいようだ。

蓮池や長池の湿地帯を抜けると、ほたる温泉が見えてくる。その先は横手山。高度とともに岩肌が露わになってきて、森林限界点の気配が道端に迫ってくる。小学生の頃、修学旅行で来た覚えのある思い出の地を、ゆっくりとXR230で流すryo。いつの間にか、その赤い車体は、ミラーの中で小さくなっていた。さらに急な斜面をヘアピンカーブでつないでいくと・・・国道で走れる最高地点、渋峠が待っている。

渋峠の辺りは、稜線をなぞっているかのよう。雲に太陽が隠れて、Tシャツ一枚で走る体が、思いっきり冷えていく。行きに国道299号線麦草峠を越えていったryo。「志賀草津道路」が有料だった頃の、国道最高地点だ。この渋峠を越えれば、2000m級の国道標高「一番目」と「二番目」の峠を、今度のツーリングで走破したことになる。それを知ってか知らずか・・・XR230にスタンディングで、うねるアスファルトをなぞっている。山の複雑な曲面を、緑の熊笹が忠実に再現していた。

<次回に続く>