8/9のキオク~終

白根山の駐車場を横に見て、ここからは草津まで一気に駆け下りる。蛇行するアスファルトを眼下に眺めながらの「下り」は、お気に入りのひとつだ。途中、土石流紛いの峡谷の上、白根山ロープウェイのキャビンが、浮かび動いている。白い機体を見上げると、小さな手が、こちらに向かって小刻みに揺れていた。コーナーごとに高度を下げ続けて・・・停車すら許されない、硫化水素ガスが立ちこめる殺生河原を過ぎれば、草津の街は、もうすぐだ。

草津のコンビニで、昼と言うにはあまりに遅い食事をすませる。ここから、ryoが選んだ帰り道は・・・長野原に出て、国道406号線、通称“草津街道”で高崎に抜ける道だった。「くちゃくちゃしてて面白そうだから」が、その理由。多少遠回りでも、六合村から暮坂峠を経由して、“長野街道”を渋川まで走り、そのまま国道353号線で赤城の麓を回って帰る・・・ワタシだったら、間違いなくそうしたはずだ。でも、予想もしなかった帰りの景色は、それこそ新鮮で、峠道はやっぱり“面白かった”。気まぐれな雨雲がこぼす大粒の雨を、勢い、抜けていくのも愉快だ。

ただ、山を下りてしまえば・・・そこは関東平野。内陸の群馬は、地元埼玉と同じく、熱がこもる。雲の消えた空から太陽が照りつけて・・・熱風に包まれた走行から逃れる場所は、作られた涼風の中にしかなかった。高崎に向かって緩やかに下る国道沿い、コンビニの中は別世界だ。しばらく涼んで、外に出ると・・・駐車場に立っているのもままならない。カチカチに凍っていたカップのアイスクリームも、食べるよりも早く、ドロドロと溶け始める。

みぞおちの辺りだけが冷たくなって、残りは陽に照らされるまま。拭う汗すら熱いと思えるほどだ。高崎からは国道17号線を南下、信号で止まる度に、太股がクシタニのレザージーンズに引っかかってつれる。つまんで引っ張り上げても、肌に張り付いて、ちっとも動かない。よどんだ熱気の中、渋滞していないのがせめてもの救い。関越道の藤岡JCTをくぐり、神流川を渡ると・・・そこは埼玉県上里町。ツーリングの終わりが近づいてきた。

本庄市に入ったところで、国道17号線を離れて利根川沿い、走り慣れた道をたどる。後は、二日前に通った道を戻るだけ。行きには寄らなかった行田のコンビニまで戻ってきて、二人揃っての最後の一休み・・・午後6時を過ぎても、空は明るいままだ。近くに住む友達のところに寄ってから帰るというryoとは、ここで別れて、単騎杉戸へと帰っていく。このツーリングで初めての“夜間走行”。その先にあるはずの田園風景は・・・暗くてまったく見えない。

途中、どうしても飲みたくなった炭酸飲料で活を入れ、ほとんど役に立たないEXC-Rのヘッドライトを頼りに、走り続ける。そして、午後8時半・・・783.4kmを無事走りきって、我が家に到着。二泊三日のツーリングとしては、結構な距離だ。左の足下で、EXC-Rの520チェーンが、だらりと力なく伸びきっていた。