谷根千~前編

日暮里駅に近い事務所から、京成線とJRをまとめて越えて歩く。「谷中ぎんざ」へは10分もかからない。昼時になると、遊びに来た人と地元の人とが混ざり合って、並んで歩くのも窮屈な通りが、ひときわ賑わう。『多満留』という名の小物屋に立ち寄り、猫の置物やつげの細工を眺めて、時間を潰す。甘味処、肉屋、喫茶店弁当屋に普通のスーパーマーケット・・・雑然とした通りの空気を、屋根の上から、住人である“猫”が探っている。曇り空に赤褐色の三角屋根が、見事に浮き上がっていた。

通りが、「よみせ通り」に付き当たったところで、右に折れる。しばらくそのまま歩いていくと、そこだけ“昭和40年代”を閉じ込めたような狭い路地が、「不忍通り」に抜けている。両手を思いっきり広げれば、路地を挟んだお向かいさんに手が届きそうだ。少し左に傾いたアスファルトを踏み締めて、あっという間に大通りへ。片側2車線の通りに沿った歩道を、千駄木駅へと曲がっていく。クルマの流れが途切れたのを見て、横断歩道の手前を急いで渡ると・・・目の前には交番。若い立ち番のお巡りさんと目が合って・・・二人、ばつが悪そうに笑うしかなかった。

<後編に続く>