誰もいないのが・・・それっぽい! 終

下り坂にさしかかったところで、タイヤの跡が付いていない右側の山肌にRMをもたれかける。ガソリンコックをOFFにするのも、忘れてはいない。マシンから体をはがして、今走ってきたばかりの場所へと小走りに戻る。耳に届くのは、フルサイズマシンの咆哮・・・流れる破裂音が森に反響して、木々の枝を震わせている。その車体が坂に消えていって、静かになった森の中・・・覗きこんだ先に、最後の斜面に挑むKX85Ⅱがあった。

マシンを押して持ち上げるにも、反りかえった斜面は勾配がきつ過ぎる。ここまで持ってくるのに、すでに息も上がっていて・・・ここはtasakiパパの、腕の見せ所だ。右足を重そうに蹴り上げて、シートに跨り・・・キックを数回踏み下ろす。少しカブってしまったエンジンは、なかなか音を発しない。力の抜けそうな右足・・・何度目かのキックペダルがクランクにうまく引っかかって、小さなサイレンサーから白く高い音がほとばしる。

リヤタイヤが空転して路面を掘り始めては、クラッチを切って、少し下がる・・・。完全に止まったマシンから、一気に斜面を上り切る力を引き出すのは、そう簡単じゃない。嫌になってマシンを投げ出してしまう・・・そのちょっと手前で、KX85Ⅱのリヤタイヤが山砂をつかみかけた。2mほど進んだところで、フロントタイヤが路面につかまり、再びKXが止まりかける。リヤフェンダーに両手を当てて、踏ん張った両足の膝をゆっくりと伸ばしてやると・・・気を取り直したように、前に進み始めたKXが、支えた腕を振り切って斜面を上っていった。

暗く湿った“難所”から抜け出して、そのまま坂を下りていくtasakiパパ。コブから一段下がると、小さく見えなくなった。その背中を追うように、RMを引き起こして、エンジンをかける。KXよりも半音くらい低い排気音を引きずって、坂を下っていく。左コーナーを回って、大坂には入らずにパドックへ・・・。先に戻っていたtasakiパパが、疲れた笑顔を見せている。その横で、「面白いけど・・・練習にならないかな」と、kyoheiが呟いていた。いやいや、ここはそれで十分。考え込まずに、笑いながら走れれば、それいい。全開にでもできれば、なおよしだ!高く澄んだ青空の下、誰もいなくなったコースに、笑い声がこだまする・・・こんなところも、森らしくて、それっぽい!