ぬくもりの季節

吐く息がうっすらと白く、引き締まった朝。空のひときわ高いところに、淡いうろこ雲が屋根を曳いている。10月も終わりになって、ようやく秋めいた空気が漂う。山の色付きも、これなら足早に駆け下りてきそうだ。夜も明けきらないうちから動き始める人には申し訳ないけど、いつもより20分ほど遅く、光りがぬくもりを運んでくる時間になってから家を出る。しかも今朝は、最後までクルマだ。夜露に濡れたフロントガラスをワイパーが拭うと、東の空から思いっきり陽が射し込んできた。冷えきった運転席は、やわらかに降る光りに包まれて・・・すぼめていた肩の力が、すうっと抜けていく。

ひさしぶりに“古巣”での打ち合わせから始まる一日。途中でしばらく抜けた時期があるけど、15年も通い続けた工場には、なじみの顔がまだ残っている。入口に立つ守衛さんもその一人、ずいぶんと世話になった顔だ。これからの季節、朝の“立ち番”は、寒くて敵わない・・・背中に陽射しが当たるようになって、「やっと笑えるよ」と白い歯を見せている。受付に名乗る前から「入門証、出してやって」と、辺りに大きな声が響く。何かとうるさい昨今、“顔パス”なんて許されるはずもないのに・・・ココを離れた1年前と、ひとつも変わらない。受け取ったカードは、ずっと建物の中にあったせいか・・・ほんのりと暖かかった。