快晴、無風。 4

スターティンググリッドの前で円弧を描いていたKXが、コースに出ていく。コースにもパドックにも、エンジンのかかったマシンは一台だけ・・・微かに響く排気音が、コースをたどる様を伝える。ゆっくりと近づいてくる高音が力を増して、目の前の坂を駆けて上がってきた。まだ“八分”ほどの開度、スタンディングのまま、引っかかるような不連続音をまき散らしてシングルジャンプをやり過ごす。どうやらコースを回る方向は間違えなかったようだ。その先のジャンプを跳び下りて姿が見えなくなると・・・乾いた排気音も、木々の茂みに吸われて、聞こえなくなっていった。

身支度を終えて、RMのエンジンも暖まってきた頃、コースからKXが帰ってきた。外したゴーグルを右腕にかけて、ヘルメットの奥の瞳がやわらかに光る。「わかったよ」・・・ワタシが「ワクワクしながら走れる」と言っていた訳が、走ってみて初めてわかったらしい。それを聞いて、入れ替わるようにコースへと向かうRM・・・細い小道を下がった先に、一年前と変わらないスターティンググリッドが広がっていた。しんなりとした山砂、その表面が白く乾いていて・・・タイヤによく絡んでくれそうだ。シフトペダルを押し下げて、前傾した上半身のまま、クラッチレバーを緩める。レバーが人差し指の関節から離れようとする瞬間、第一コーナーのバンクへと、RMが加速していった。

<次回に続く>