雨上がりの風

一日中降り続いた雨が、日曜日の朝をしっとりと目覚めさせる。夜の奥底まで聞こえていた雨音で、走りに行くのはすっかり諦めていたから・・・起き抜けのガラス越しが黒く濡れていても、割と元気にベッドから這い出て来られた。空のうんと高くに、きちんと並んだ“うろこ雲”。そのすき間から、時折陽が漏れてきて、アスファルトに残った“染み”が、キラキラと光っている。天気は、昨夜寝る前に見た予報のとおり、「回復に向かう」ようだ。ベッドから下ろした足がフローリングの床をきしませると、シロとネロが激しく反応し始めた。

太陽は雲の中をゆっくりと動いて、気まぐれに窓の外を明るくしている。散歩から帰ってきて、食べるものも食べて・・・玄関のゲージの中に居る二匹は、それまでの元気が嘘のように、やる気なさそうに丸くなっている。そんな“気”が伝染してきたのか、温めのインスタントコーヒーをすするワタシの時間も、無為に過ぎていく。マシンの整備は、昨日で終わっている。ryoは全日本モトクロス最終戦の駐車場整理のバイトに行って居ないし、keiも朝早くから出掛けていて・・・居間には、壁に掛けた時計の針が進む音だけが、規則正しく響いていた。

ちょうど探し物もあるし、春からずっと引きずった“思い”もある・・・何か始めるには中途半端な11時前、越谷レイクタウンまで“電車”で出かけることに決めた。それでもせっかくの雨上がり、Bongoを置いて、駅まではXR230で行くことにする。ただ、まともに公道を走るのは、ひさしぶりだから・・・何を着ていいのか、よくわからなかい。とりあえず“下”は、染め直していない方のカントリージーンズを履いて、“上”は厚手のTシャツに裏起毛の綿のパーカー、その上に古いKUSHITANIのゴアテックスジャケットを組み合わせる。よく見れば、パーカー以外は、夏のツーリングと同じ恰好だった・・・。

裾の方がまだ濡れている銀色のシートを外すと、赤いシュラウドが埃を被っていて、少しくすんで見えた。ハンドルの左側に付いたチョークレバーを引いて、セルボタンを押す。弱弱しく回ったスターターが、一瞬電圧が下がったようになって、MD33Eに火が入った。暖機に時間のかかるXR系のエンジンは、なかなかチョークレバーを戻せない。その間も、陽は照ったり陰ったりを忙しく繰り返していた。しばらくして、ようやく暖まってきたXRに跨り、路地から通りに出ていく。右に曲がったバックミラーが陽射しを跳ね返す・・・。

ジャケットの折れた襟から露わになった首筋に、湿った風が冷たく触れる。赤信号で停まると、今度は左の二の腕がじんわりと暖かくなってきて、ゴアテックスに包まれた体が、うっすらと熱を帯びてくる。信号が青に変わって走り出すと、心地良い湿り気が再び体に絡んでは後ろに流れていく・・・駅までのつもりが、このままどこかへ行きたくなってきた。たまにはアスファルトの上、風を肌に感じて走るのも悪くない。そう、その匂いを忘れないように。