他社から乗り換え、してみる?!~前編

ビルの5F。部屋の大きさを無視するように放り込まれた机と、その上に並んだタワー型のパソコン、ディスプレイ。黒い窓が、部屋にうごめく人影をはっきりと映している。閉ざされた空間に人いきれ・・・ワイシャツの袖をまくり上げて、疲れを知らない若い社員が、大きく笑っている。Tシャツがじっとりして、熱気にめまいがしそうだ。小一時間ほどExcelのシートを見ながら・・・机上の打ち合わせに汗が出る。

ようやく小部屋から解放されて、エレベータが1Fで開くと、冷たい風が足下から這い上がってきた。外とは薄いガラスの自動ドアで仕切られた広間で、手に持った上着とマウンテンパーカーを着こむべきか迷っていると・・・自動ドアが音も立てずに開いて、凍えた闇からコートをまとった男が入ってきた。体の火照りは、まだ治まらない・・・一瞬考えて、閉りかけたガラス戸に向かい、ワイシャツ姿のまま走っていった。

甲州街道沿い。新宿駅の南口まで続く歩道は、朝夕の往来には、ちょっと幅が狭い。暗がりから届く風が体に触れて、湿ったTシャツも冷たくなり、このまま居たら風邪を引いてしまいそうだ。それでも、圧倒する人の波に抗うこともできずに、足早に、よどみなく歩いていく・・・左手に抱えた服が、行き交う人の邪魔にならないように。時折、腕が後ろに弾かれて、少し不機嫌になる。

うつむきかけた顔を上げて、連なる人垣に目をやると、新宿には似合わない純白の光が、通りをそこだけ明るくしていた。出来て間もない、ヤマダ電機の新宿店は、異様なまでに高い天井に白壁がめぐらされていて・・・陳列された商品と同じく、どこまでも人工的な輝きに溢れている。体も冷えきっていて、ちょうどいい。物色するフリをして、店内に足を踏み入れる。入口には最新の携帯電話が揃えられて、不必要に思えるくらいの売り子が、資料片手に“ぎょうさん”たむろしていた・・・。

<後編に続く>