他社から乗り換え、してみる?!~後編1/2

開放された店の中は、見事に空調が効いていて、空気が温かった。手にした上着を着るほどじゃない。そのまま建物の奥まで歩いていって、この前壊れたヘッドホンの代替品を探してみたけど、天井までびっしりと飾られた彩りの中に、「これだ」というものは見つからなかった。他にすることもなく、並べられた携帯電話に目を落としながら、来た方向へと戻っていく。つい半年前に発表された機種の前に「0円」と大きく貼り紙がしてある。立ち止まって手に取っていると、当たり前のように「何かお探しですか」と、こもった女性の声が背中から聞こえてきた。振り向くと、小柄な彼女は、顔も小さくて・・・普通サイズのマスクが、そのほとんどを覆い隠している。眉にかかった茶色の前髪とマスクの間に、つけまつげで縁取られた瞳が、黒く濡れていた。「これ、0円なんですね」仕方なく、そう訊いてみると・・・「お客様は、どちらの携帯をお使いですか」。お決まりの文句は、懐かしい関西訛りだった。

<後編2/2に続く>