冬の気配 2

shinくんらしい派手なジャンプに、乗れて調子がいいと思っていたら・・・「キャメルもしばらく跳んでなかったから、ビビりが入っちゃって・・・ダメダメ。ダブルもまだ跳べてないし」ゴーグルを付けたまま、ヘルメットを二度三度、横に振って声を張る。イバMOTOに出ては、選手権ライダー相手に一歩も引かず、互角どころか先頭を走ることも珍しくない。“無冠の帝王”と呼ばれる所以だ。バックルックで後続車を見下ろし、コース脇の声援にアクションジャンプを魅せる姿は、「努力」の対極にある天性の走り・・・ずっと、そう思っていた。

モトクロスを始めて間もなくの頃、まだホームコースが利根川の河川敷だった時分・・・出会いは、偶然だった。ちょうど走り終わって、ryoと二人、軽トラの脇で椅子に座って休んでいた時のことだ。フルサイズとミニサイズ、大小のモトクロッサーを三台、前後互い違いに積み込んだ軽トラが、河川敷に続く砂利道から葦の茂みを越えて入り込んできた。後ろからは、お連れさんの乗用車が一台、水たまりを避けながらくねくねと細い黒土をたどっている。「ここ、走ってもいいですか?」もちろん、こちらも黙って使わせてもらっている他人の庭だ、「うちらも勝手に走っているだけですから」と、軽トラの窓から覗く、子供っぽい微笑に答える。それが、shinくんだった。

その後、何度か利根川で一緒になったきり、しばらく会えないでいた。再会したのは・・・河川敷じゃなくてモトクロスコースを走る週末が多くなってきた頃だ。場所は、ここMX408。利根川で見ていた時よりも洗練された姿で、今では思い出になってしまった“6連ジャンプ”や“4連ジャンプ”を右に左にと自在に車体を捻っては、うっとりするくらいの軌跡を描いていた・・・その走りには、にじむような努力とか恐怖から来る躊躇など似合わないはずだった。それが「ビビってるから、ダブルも跳べてない」とは・・・耳を疑った。

<次回に続く>