他社から乗り換え、してみる?!~後編2/2

<11/25の続き>

やわらかな抑揚は、まっ平らな話し方をする関東人に、よく沁みる。彼女の質問には答えず「大阪からですか?」と切り返す。一瞬の沈黙の後、「大阪じゃないですけど・・・関西方面です」と、黒い瞳が大きく開いた。”大阪”と決めつけたのは・・・口調といい、声色といい、浪速のsumiちゃんに似ていたからだ。瞳と前髪しか見えないから、余計に惑わされてしまう。新しい職場で忙しくしているのか、にぎやかな電話もメールも、このところ届かなくなってしまった。その寂しさを埋めるように、彼女の正面に体を向けて、少し話し込む。

0円なのは「他社から乗り換え」てくれるときだと、ゆっくり、諭すように話す彼女。この振る舞いは・・・ちょっと違うかな?と思いつつ、「それなら知ってるよ」とは言えずに、自分はすでにスマートフォンを持っていること、その“IS03”を手にしてから一年しか経っていないこと、会社の友人が乗り換えを検討していること、“11月18日から機種拡大!”の広告に惹かれて立ち止まったことなどを、正直に話した。ちょっと肩を落とし、上目づかいに見つめる瞳・・・そこにsumiちゃんの笑顔が重なって、そばから離れられない。

大坂ミナミのヤマダ電機にでも居るように、微かな時が過ぎていく。同じ通信会社では「乗り換えできない」から、それぞれの端末の特長を細かく教えてくれる彼女。まっすぐな瞳を、無駄に引き留めておくことが後ろめたくなって、冷やかしの客は静かに礼をして立ち去ることにした。再び暗がりの雑踏に出ていくと、夜風はさらに固く冷たくなっていた。上着とパーカーをあわてて着込み、人の波に合わせて歩道を歩き始める。その傍ら、4ストロークマルチの伸びやかな高音が、新宿駅を背に甲州街道を流れていった。0円で他社から乗り換えられたら・・・KTM85SXなんか、同系色でいいかも?音の余韻に、ふざけた思いと大坂訛りをのせて、南口まで続く坂道を足早に上っていった。