2011年最後のレース~その11

インをえぐるように走るには、手前にある邪魔なコブを乗り越えなくてはいけない。しかも、崩れかけた路肩が、そのまま斜めになって水たまりに落ちている。コブを避けて、外側をかすめるように立ち上がるのが・・・普通の走り方だ。tomobeさんは、そのラインを外さない。だから“普通”じゃダメだった。前の周回で試したときは、リヤがすべって横に並んだだけで終わったけど・・・今はL1、行儀よく走っている場合じゃない。手前のテーブルトップを舐めるようにして、コブの外側へとマシンを運ぶtomobeさん。同じ黄色い車体が向きを変え始める前に、小さな出っ張りにフロントタイヤが当たる・・・先にコーナーを出たのは、そのワタシのフロントタイヤだった。それでも、外へはらまないようにハンドルをねじるのは、優しすぎるのか・・・。左から近づいてきたRMにも優しさが移ったのか、少し外側にラインを外していく。その背中越しに、アウトのラインをまっすぐに立ち上がってくるマシンが見えた気がした。

それは気のせいではなく、もちろん幻を見たわけでもなかった。ryoが勝負を仕掛けた姿だった。立ち上がったすぐ先には、短いテーブルトップ。思いっきり跳んで、二台まとめてかわすつもりの加速だ。その二台が先にテーブルトップを跳び越す。そして、斜め左へとワタシから離れていくtomobeさんのRMが、KXの着地点に近づいて・・・すでに空中にあるKXを左に捻るryo。「ぶつかる!」右手を戻したワタシの左側で、もつれ合う二台・・・弾かれたのは、KX85Ⅱだけだった。不意を衝かれて驚くtomobeさん。その脇で、勢いよく左に投げ出されるryo。KXのリヤタイヤが、宙を舞う。VFX-Wが路面に弾んで、そのまま地面に崩れた体は、動かない・・・逃げていくtomobeさんの背中を追うことは、もうできなかった。TEAMナノハナ今年最後のレースが、ここで終わる。ryoの激走も幕引きだ。ブレーキペダルを右足で押しつけたまま、少し長いテーブルトップを力なく上っていく。台形をなぞるようにしてから、左コーナーを止まりそうな速度で回って・・・フープスのひとつ目のコブに、RMを完全に止める。奥の林から、バックストレートを抜けていくマシンの排気音が、微かに耳に響いた。

左側を下にして、横倒しになったKX85Ⅱ。その隣で、寝ころんだままのryo・・・ヘルメットを着けたままの上半身がコースから外にはみ出て、体ごと斜面をすべり落ちていきそうだ。どこに居たのか、真っ先に駆け寄ってくれたのは、“散水師”のmaedaさん。その後ろから、“夏ガール”のコーススタッフが駆け足してくる。「肩は?」脱臼したとばかりのワタシの問いかけに「肩“は”大丈夫・・・」と声がする。遠くにいて、お互いヘルメット越しのせいか、しばらくして届いた声は、小さかった。それでも“済生会”のだだっ広いロビーは頭から消えて、RMを支える両脚に力が戻ってきた。後を二人に頼むと、右手で引き出したキックペダルを踏みつけ、エンジンに火を入れる。残った7つのコブを、ゆっくりスタンディングで撫でていく。バックストレートに出てから、左手でエンジンに喝を入れて加速を始めると・・・ゴーグルを外した瞳が、冷たい風ににじみ出す。心配そうな顔のMr. Gに「たぶん大丈夫」とだけ伝えて、スネークヒルを静かに下り・・・最後の右コーナーをアウトから立ち上がって、フィニッシュのテーブルトップを派手に跳び上がる。その先で受けたはずのチェッカーフラッグは、記憶が曖昧だった。

<まだもう少し・・・続きは次回に>