傍惚れ~前編

「へぇ~そうかい・・・あたしゃそうは思わないけどねぇ」しかめた眉はハの字に、真っ赤な唇をすぼめ、長身を折り曲げるようにして組んだ足に肘をつく。混り気の無い、鮮やかな青のシャドウをまぶたに塗りひろげて、瞳の輪郭が黒く濃く縁取られている。人が扮した“妖怪人間”は、やっぱりその美しさまでは隠しきれない。大きく見開いた瞳が、まん丸に膨らんでいた。

子供じみた、そのひねくれぶりは、幼いワタシにもわかりやすくて、好ましい性分だった。どんなに裏切られても、どうしても捨て置けない、不器用な優しさ・・・そんな“妖怪人間”を、そのまま演じているのは杏ちゃん。本家のベラには怒られそうだけど、とても比べ物にならない美貌。だけど、その気質は見事にベラだった。ちょっと照れて、人差し指でベロを小突くあたりは、本家も納得だろうか。

“実写版”と言われて、心躍ったためしがない。それどころか、大抵は「見なきゃよかった」と後悔する。子どもの頃の淡い想い出を、いい大人になってから見てしまうように・・・。あり得ない現実を描いてくれるのがアニメーション。子どもの時分に見て、夜、トイレに行くのを我慢させられた冒頭の暗く湿った不気味さだって、どこまで再現できるのか怪しいものだ・・・そう思って始めは見ていなかった『妖怪人間ベム』。今は、それを後悔している。

<後編に続く>