“本気”で初走り 4

住所と名前、電話番号を書き入れた走行申込書と一緒に、出来上がったばかりの“魔法の券”を手渡す。おまけの“プレミアムカード”を、二、三度ひっくり返しては、しげしげと眺めるsaitoさん。ようやく受付を終えると、そのままパドックを進んで、朝と同じ場所にBongoを停める。コースはクラス分け無しのフリー走行、ちょうど走っているのかmachi-sanのCRFも無ければ、ryoのKXも見当たらない。運転席から出て、後ろの荷台へと回り込む。陽射しのおかげで、肩をすぼめるような気温も、いくぶん和らいでいる。外した腕時計を見ると、もうすぐ10時になろうとしていた。

「奥は、凍ってるよ」デニムをモトクロスパンツに履き替えたところで、ryoが戻ってきた。今は風も無くて、「上は、ジャージだけでも大丈夫」らしい。右手で掴んでいたSIERRA DESIGNSの白いTシャツを、そのまま着替えの入ったヘルメットバッグに返してやる。ただ、上半身をはだけたまま外へ出るには、さすがに空気が冷たかった。急いで両肘にプラスチック製の防具をはめて、頭からジャージをかぶる。微かな洗剤の香りをくぐり抜け、襟ぐりから顔を出すと、machi-sanもパドックに帰っていた。

「エンジン、少し暖めておいたよ。でも、なかなか掛からなかった・・・」ペットボトルのスポーツ飲料を喉に流してから、ryoがぼそっとつぶやく。奴から“預かって”、もう二年が過ぎて・・・#357を着けた赤いマシンに、本気で乗るのは、これが初めてかもしれない。左手でハンドルを支えながら、右手でサイドスタンドを外して、左に傾げた車体をまっすぐに起こす。いつもとは違った、重たいものを持ち上げるような感触が両腕に残り・・・キックペダルを踏み降ろす右足にも、強い反発が伝わってくる。4ストマシンらしい重厚さが、堅物だった奴に、よく似ている気がした。

<つづく>