“本気”で初走り 6

コースに撒かれていたはずの水は、渇ききった大地に吸い込まれてしまったようだ。まだ午前中なのに、フルサイズマシンが走り抜けると、ところどころで土煙が上がっていた。エンジンを止めてしまうと厄介なことになる・・・右手を小さく刻みながら、マシンが途切れる瞬間を計る。RMと同じ幅のハンドルは、少しだけ広く感じられて、それが何だか妙な気分だった。スネークヒルに張り付いていくCRF250R。後ろから来るマシンは、見えてこない・・・そのCRFがフィニッシュテーブルを跳び越え、ホームストレートに姿を見せたのを確認してから、背中を反らせるようにゆっくりとシートに体重を預ける・・・。

スロットルをわずかに開いただけなのに、リヤタイヤは敏感だった。そのまま気前よく開けていっても、空転することもなく、フロントタイヤが向いている方にマシンが加速していく。PURETECHで仕上げてもらった前後のサスペンションが支えるまでもない。走り慣れたコーナーを探りながらつないでいって、奥から戻るストレートで全開にしてみる。ryoが言ったとおり、コブとコブの間が暗く光っていた。力強さとは反対に、エンジンの回り方は、感覚よりも遅れてくる感じがするCRF。冬の間、霜柱が溶けては表面だけが緩くなるスネークも、凍るほどの水気すら消えているようで、褐色の路面はしっかりしていた。

一周回って、コースの状態はわかった。次の興味は、当然真下にいるCRF150RⅡだ。二周目のホームストレート、一瞬だけでも全開を試そうと、右手を思いっきり捻る・・・ただ、深く握っているつもりでも、握り直さないとスロットルグリップが止まるところまでは届かない。ここも、RMとは違う。第一コーナーをアウトの縁まで進んでいって、右に90°曲げる。そのまま短く加速して、第二コーナーもいつもようにアウトから回る。そして、加速。車体が倒れた状態から加速を始めているのに、すべり出す気配が全くない。もちろん、全開にして立ち上がっているわけではないし、RMの時のように乱暴に右手を動かしているわけでもない。でも、呆れるくらいに落ち着いて路面をたぐり寄せる感触は、クセになってしまいそうだ・・・。

短い助走でも十分に跳び上がれるし、斜面に向かって斜めに入っていく素振りも見せない。安心できる加速は、それだけで魅力だ。だけど、いいことばかりじゃない・・・。明らかに重い車体は、数値以上の重量感をステアリングヘッドの辺りに乗せている。おかげでフープスを走り抜けるのも、しんどい“作業”になった。腕を引いただけじゃ、下がったフロントタイヤは返ってこない。そのフープスを、同じCRF150RⅡで涼しげに走り去るざりまま・・・焦る心は、さらにちぐはぐな動きを誘い、何度か凹みに落ち込んで、怖い思いをさせられてしまう。

<つづく>