“本気”で初走り 8

イバMOTOの最終戦からだから・・・ひと月以上開いている。しかも、まだ二本目のryo。控えめに走るつもりが、CRFをかわして気分も乗ってきたのか、少し速度が上がり始めた。コーナーごとに背中が小さくなっていくryo。フープスを走る頃には、入口と出口の差がついて・・・その姿は見えなくなった。ただ、すぐに視界に捉えることになろうとは・・・三速に入れっぱなしで、RMと同じように半クラッチを当てながら、バックストレートを駆け抜ける。

スネークのひとつめ、小さい坂を跳び越えた先に、緑色のKX85Ⅱが横倒しになっていた・・・。車体は反転して、フロントタイヤが坂の上を向いている。その脇で丸くうずくまったまま、起き上ってこない。「ヤバいな」倒れたKXとryoをかばうように、斜面の途中にCRFを停めて、後続車に手を上げて合図する。地面に下ろした左足から下に向かって、引っかき傷のような筋が一本、路面を黒く削り取っていた。アウト側の凍った路面に触れて、そのまま叩きつけられたのだろう・・・。

スネークヒルの下り、アウトの縁で見ていたライダーが駆けてきて、KXを引き起こす。半身を起こしたryoは、右手で左の肘を押さえた姿勢のまま、跪いて動かない。「はずれたか」・・・ようやく立ち上がって、こちらに向けられた肩の線が微妙にずれて・・・左肩は、不自然な形に下がっていた。“本気”で走るのはこれからだったのに・・・龍ヶ崎済生会病院の救急入口、床も壁も扉もすべてが真っ白な待合室を思い浮かべてしまう。ryoはうなだれて、下を向いたままだ。

<つづく>