“本気”で初走り 9

傍にいるワタシに気づいて、ゆっくり体を右に捻ると・・・冷たい陰の中、弱く光が射した。こちらに向き直った両肩の線は、地面と並行になっている。はずれかかっていた肩の関節が、うまいこと元の位置に戻ったらしい。ひとまず救急車を呼ぶことはなくなった。新春早々、縁起でもない・・・とならずにホッとしながら、CRFを再始動させてやる。冷えたエンジンにキックペダルで混合気を送り込み、精一杯に圧縮する。下までしっかりと踏み降ろすつもりのペダルが、ブーツの底を軽く押し返す。しばらくもどかしい時間が過ぎてから、ようやく狭い管に排気が破裂する。空吹かしの音は、割れたまま、どこまでも伸びやかだった。

パドックに戻ると、左肩を擦りながら、ryoが歩いている。「信じられない」といった風情だ。ステップに立ち上がった、そのままの姿で路面に落ちたらしい。亜脱臼ですんだのは・・・年男に神様が微笑んだのかもしれない。痛みで走れないかと思えば、案外平気な顔で、CRFを見つめている。「サスはどう?ばねは固い?」乗りたいのかと訊いてみると、その気はあるようで、オーバーホールした前後のサスペンションの調子を逆に訊いてくる。サスペンションよりも4ストエンジンのおかげで「転ぶ気がしない」と教えたら、うれしそうに唇を開く。ただ、瞬発力と引き換えに、路面を蹴って進む感じには・・・まだ馴染めないでいた。iguchi師匠のハイエースがやってきたのは、そんな時だった。

案の定、第二コーナーの縁に乗り上げて、外へこぼれ落ちそうになる。2ストマシンに乗り替えて、真っ先に感じる瞬間だ・・・どれほどエンジンブレーキに頼っていたのかと。この前乗ったのが思い出せないくらい、ひさしぶりに跨がるKX85Ⅱは、動きすぎる柔らかいサスペンションが、RMよりも一回り小さい車体を支えていた。コーナーを回っている間の、路面に押し付けられるような感覚に、RMには無い安心感を抱く。柔な印象は、フープスで心許なく思えてくるけど・・・軽い車体と鋭い吹け上がりで、CRFよりも速く走らせられている気がした。薄い低速の力を、半クラッチで補ってやれば、潔く加速を始めるKX。型が旧いといっても、そこはryoの愛機・・・実力は侮れない。もう一度、第二コーナーを回った時には・・・「RMより、コーナー速いかも?」と満足してしまったほどだ。

<つづく>