“本気”で初走り 10(完)

ryoもワタシも、さすがにCRFを手なずけるまでは届かない。どちらも乗り慣れていないワタシにしてみれば「このままKXでもいい」くらいだから、この4ストマシンを乗りこなすのは、かなりしんどそうだ。ryoが言うには、得意のバックストレートも「お話にならない」走りらしい。コース脇で食い入るように見ていたiguchi師匠も、「RMみたいに振り回せてないからね・・・RMじゃなかったら、いくらでも走っていいよ」と笑っている。悔しいけど、それは本当だ。賄賂を配るまでもなく、ワタシの目の前から、ざりままも消えていく・・・。

午後になっても、ryoとマシンを取り替えながら走る。どんなに時間が経っても、CRFがKXに優ることは・・・今日のところは、無さそうだ。ひとしきり2ストロークの“軽さ”を愉しんで、ホームストレートに帰ってくると、#357のCRFが待っていた。こちらに向けたryoのゴーグルが、眩しく光っている。KXを横に付けて、「替えるか?」と訊くと、「フロントがフラフラする」とCRFのハンドルに顎をしゃくる。「ステムの締め付けが甘いんじゃないの」と言わんばかりの口ぶりに、少しムッとしてCRFを受け取ると・・・思いっきり右手を回して、第一コーナーに突っ込んでいった。

第一コーナーの手前、スロットルを戻した瞬間、確かにフロントタイヤが何か柔らかいものを踏みつけたように、緩く揺れた。そのままひとつめのテーブルトップ・・・まっすぐに入ったつもりが、なぜだかハンドルが斜めになって跳び上がる。ステップアップジャンプは舐めて、第四コーナーをアウトから回り、ステップダウンの斜面にかかる・・・速度が乗っている分、今度は大きく左によれて跳び上がる。ドスンと鈍くフロントタイヤが路面に落ちた。「もしかしたら・・・」マシンを停めずに、上半身だけを前に突き出して、フロントタイヤをのぞき込む。視線の先のフロントタイヤは、リムと路面の間で平らにつぶれていた。パンクだ・・・。

止まってしまうような速度まで落として、コースの縁をたどっていく。フープスの入口で見ていたsatakeさんに、左手でフロントタイヤを指しながら、「パンク!」と大声で叫ぶ。よく声が響かなかったのか、一瞬、怪訝そうに首を傾げたけど、つぶれたタイヤがわかると、大きく頷いてくれた。よく見れば、チューブの口金がタイヤの中に隠れてしまっている。「ビードストッパーは飾りか」・・・そんなことを思いながら、フープスを中途半端な速度で抜けて、バックストレートも冴えない加速で走る。パンクに気づかなかったのに転ばなかったのは・・・ワタシも年男だからだろうか。

machi-sanのvanetteを背に、椅子に深く腰を落とす。まだ陽は高く、さらさらとうごめく竹林の輪郭を、空に黒く映していた。3時30分まで、まだ時間は残っている・・・いきなり終わってしまって、それに、思っていたよりも乗りこなせなくて・・・空の明るさが、うらめしく映る。今日の走りに、CRF150RⅡの持ち主は、一体どんな顔をしているんだろうか・・・見上げても、耳に残った憎まれ口が聞こえてくるわけでもなく、高いところには薄く引かれた雲が白く光っているだけだった。