大きなお姉さんへ

そうだ、来週だ!

8階にある書店を離れて、エスカレーターで降り始めた時に、勢いよく思い出した。気分が楽な時と、そうでない時・・・そのどちらかに片寄った時に、よくぶらついて帰る北千住のルミネ。水曜日は「そうでない時」の方・・・少し気持ちがもつれ始めていた。JRから東武線に乗り換える、そのJRの改札を出たところがルミネ。“駅前”の丸井と違って、改札の“目の前”、外に出ないのがいい。一気に「ブックファースト」まで上がっていって、ひとしきり本を見てから、だらだらと降りていく。その日も普段と同じことを繰り返す・・・途中、ひとつ階を降りて体を翻した時に、ざりままに教えてもらった“1月23日”を思い出した。

店に居れば、ministopでちっさなケーキでも買っていくんだけど・・・平日しか働いていないから、そうもいかない。それなら「何か変わったお菓子でも」と、6階にある輸入雑貨を集めた「PLAZA」へ足を運ぶ。太い通路が、正面のエスカレーターで、左右半分に裂かれている。左側に、真っ青を背景にした、白い「PLAZA」の文字が見える。開放された店内は、原色と光があふれていた。その勢いにやられて・・・反対側、ちょうど通路とエスカレーターのすき間に目が移る。溶けるような淡い彩りが細長く続いて、京小物の店が静かにあった。駄菓子屋を思わせる賑やかさで、和風の小物が散りばめられている。華やかでいて、派手すぎないのが“京風”なのだろうか・・・。通路側の棚に飾られた小物を見ながら、その流れのままに折り返して、狭い店の中に入っていく。

化粧っ気のない生肌は、うっすらと小麦色に見えて、白いカッターシャツの上で据わりが良かった。やたらと太いフレームに大きなレンズの眼鏡をかける女の子をよく見かけるけれど、少し古めかしい銀色の細い金属製のフレームは、髪を胸元までまっすぐに垂らした彼女に、よく似合っていた。洗い立てのような固い青のデニムが、余計に清々しい印象を与えている。「贈り物か何かですか?」のぞき込むような笑顔と、その笑顔からにじんだような声が、初見の店にありがちな“構え”を無くしてくれた。

「気を遣わなくてすむような」というワタシの求めに、彼女が手にしたのは「シアバタークリーム」。初めて耳にする、五百円玉ぐらいの大きさしかない器のふたをねじって開けると、右の人差し指で中をすくって、すばやく左手の甲に塗り込む。そして、一度自分の鼻に近づけてから、その手をワタシの目の前に突き出した。「保湿クリームなんです、香り付きの。女性の方なら、ご存じだと思いますよ」ほんのりと椿のいい匂いがする。「私はこれがお気に入りで・・・自分でも使ってるんです」試しに他の3つのふたを開けて、それぞれ鼻を付けてみたけど・・・ふたにバラの描かれた小瓶以外は、どちらもパッとしなかった。そして、そのバラの香りも、やはり椿には敵わないように思えた。

少し考えてから、「これ、包んでください」と、椿の絵があしらわれた小瓶を、彼女の手に落とした。大きいお姉さんが“渇いて”いるかどうかはわからないけど・・・潤いは邪魔にはならないはずだ。月曜日・・・彼女もまたひとつ、歳を重ねる。