1991 Hockenheim~2

コースを走るマシンの音が、遠くに聞こえる。走っている時はちょうどいいのに、一度動きを止めてしまうと、体は縮こまるばかり。ベンチコートにくるまれたまま、さらに体を丸くするmachi-sanとワタシ。その前に、saitoさんが立っている。

「RMはまだなの?」saitoさんに訊かれた愛機は、ようやくシリンダとシリンダヘッドが組み付けられたところ。フレームには、フロントフォークもスイングアームも、まだ着いていない。「まだ。ばらけたまま・・・大人しく整備だけしてれば終わるんだけどね・・・」と、目の前のCRF150RⅡに目を向ける。整備しているのは、他でもないワタシ自身・・・RMそっちのけで走っていては、作業が進むはずもない。「黄色くしちゃえばいいんだよ」と、あっさり乱暴なことを言う。「走っていて楽しいのは2ストだけど・・・やっぱりCRFの方が速い」saitoさんに、そう言い切られると・・・黄色いCRFを想像して、少し心が動く・・・。

「そう言えば、iguchiさんもオーバーホールしてるんでしょ?」今度は、ご無沙汰している師匠のマシンに話題が移る。「ショップに出してて・・・上がるのは18日だって。週末に取りに行って、それから組んで・・・22日に来るかもって言ってだけど」知っている情報を全部話すと、「自分でやってないんだ?そうだよね。4ストじゃね」さすがにカムシャフトやらバルブやら、余計なものがシリンダヘッドにくっついているエンジンは、ちょっと尻込みしてしまう。間に“カムチェーン”なんて面倒な代物もある。「ドカのエンジンは良かったなー。デスモドロミックはバルブスプリングも無いし、タイミングベルトも“外付け”で簡単に外れるし」確かに整備性の良かったDUCATI M900を引き合いに出して、machi-sanの顔を見る。

モトクロスを始めるまで、DUCATIに乗っていたのはワタシと同じ。ただ、machi-sanのは“マイクヘイルウッドレプリカ”、血統と何しろ値段が違う。本当は(今でも)“750F1 PANTAH”に乗りたかったこと、そして、西東京にあるお店で試乗した“996SP”は、あまりに衝撃的な出会いだったことこと・・・を、昔話によくあるように、少しだけ大げさに話し始めた。DUCATIに反応したsaitoさんが「888SPに乗りたかったんだよねー」と声を上げる。意外なことに、若い頃のsaitoさんはロードも好きで・・・昔からヤマハ党だったようだ。そこから先は・・・saitoさんも止まらない。

<つづく>