傍惚れ~後編

<2011/12/26の続き>

走りに行かなかった土曜日。点けっ放しにしていたテレビから、どこかで聞いたことのある台詞が耳に届いた。夕方の再放送枠で流れていたのが『妖怪人間ベム』だった。亀梨くんが演じるベムの隣、斜に構えた杏ちゃんが悪態をついているところ。このベムが、心の中に居る姿とあまりにかけ離れていて、食指が動かなかった。「あー、もう、じれったいねぇ!あたしゃ、そういうのが大っ嫌いなんだ」啖呵を切って立ち上がるベラ。振り向きざまに深いドレープの裾を翻して、大股で闊歩していく・・・「付き合ってられないよ、勝手におし!」と吐き捨てても、二、三歩ですらりと延びた脚が止まり、「まったく・・・放っておけないよ」と、その赤い唇をきゅっと持ち上げて、すっと手を差しのべる。この日の夜から・・・『妖怪人間ベム』は、欠かさず観るドラマになった。

慣れてくると、亀梨くんのベムも、すっかり私の心に入り込んでいた。感情を押し殺した表情は、これまでと違う新しいベム像を作り上げていた。なりきった演技の賜物だ。それでも目で追うのは・・・決まってベラ、ちょっと背の高い杏ちゃんの仕草、言葉にどんどん惹かれていく・・・この歳で傍惚れするのも、悪い気分じゃない。休日の夜の密かな愉しみは・・・でも、長くは続かなかった。

灼けた炎に包まれ、柱が次々と倒れていく部屋の中、涙を流し哀しそうな、それでいて満足した微かな笑みを浮かべて・・・ベムとベロが、どんな表情をしていたのかも思い出せないくらい、ベラの最期?!は光っていた・・・。これが杏ちゃん扮するベラの見納めかと思うと、ちょっぴり寂しくなる。杏ちゃんの魅力なのか、それともベラの純粋な心に惚れたのか・・・どちらなのか、よくわからないけど・・・これからは、杏ちゃんが出るドラマを楽しみにしておいた方がいいのかもしれない。